かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『悲しみが乾くまで』 Things We Lost in the Fire
2008年 04月 16日 |
北欧デザインの上質な大人のドラマ。

二人の子の母オードリーの夫が、ある日不幸に遭い、彼女は夫の親友のジェリーに対面した。



デンマークの女流監督スサンネ・ビアのハリウッド進出作。ヨーロッパ映画が好きな私は、彼女のデンマークでの作品をとても気に入っていたけれど、名の知れた英語圏の俳優を起用したこのアメリカの物語をさほど楽しみにしていたわけでもなかった。だけど、やっぱり興味はあった。何しろ、主演が、ハル・ベリーとベニチオ・デルトロということで、落ち着いたトーンの確かな大人のドラマが期待できそうだもの。このキャスティングを知った当初は、喪失を抱えた2人が恋愛関係に陥るドラマなのかなと思っていた。ところが、実際にこの物語を目の当たりにして、2人の役まわり・それぞれの立場を把握してからは、そんな陳腐なメロドラマ的展開はしないだろうなって思った。だって、『アフター・ウェディング』のスサンネ・ビアだもの。

といっても、先にこの脚本があって、プロデューサーのサム・メンデスがビア監督に白羽の矢を立てたらしい。だから、今回のものは彼女のアイディアによる脚本というわけではないようだ。これまでの作品のように、巧みに用意された運命のイタズラにうならせられるということはなく、似ような物語がよくあると感じられるほどに、筋書きはいたってシンプル。だけど、人の思いを繊細に描写するリアリティのある演出はやはり彼女ならではの秀逸なものだった。そこに俳優の演技力の素晴らしさが完璧に呼応していて、ありふれたテーマでありながら、上質で味わい深いドラマに仕上がっていた。『チョコレート』以来の細やかな演技を見せてくれたハル・ベリー。演技派ゆえに激しめでエキセントリックな役の多いベニチオが人間味あふれるこういう役柄をやってくれるのも非常に嬉しいな。

アフリカ系にラテン系という輪郭線の濃いビビッドな存在感の俳優を主演にしていながら、ここに漂う空気はこれまでのビア監督作品と同じような北欧の匂いと肌ざわりが感じられるから不思議。整然としていて、ナチュラルなのだけど洗練されてもいるような。いつものアメリカとは一味違う空気感なのだけど、その物語は、銃やドラッグによる不幸というのはやはりアメリカ的なものかな。でも、もちろん、ジャンルの違う映画 『ブレイブ ワン』のジョディ・フォスターのような方向へ走るなんてことはなく、オードリーは静かに喪失感と対峙するのであった。人が大切な人を失った時、どのような心境に陥り、どんな風になってしまうものなのか。それは型にハマるものじゃないとはわかっているけれど、『再会の街で』の主人公のなれの果ての姿なんかには作り物的な不自然さを感じたりもした私。だけど、この物語のオードリーの悲しみの色には胸に迫るリアリティが感じられて、その思いにじっくり心寄り添えるのだった。夫がとても良い人だったとわかっていくほどにまた辛く。火事の時の彼の言葉も素晴らしいの。

夫の不在によって、ゆっくり安らかに眠れなくなったという些細なことがやけにリアルでせつないの。泣き叫んだり、不審な行動をとってしまうという姿なんかを描写されるのよりもね。安眠を求めて、ベッドでの夫の役をジェリーに頼むっていう場面はたまらなくやるせないものがあったなぁ。夫の親友だって、彼が妻の耳たぶを引っ張っていたことなんて知らなかったでしょうし。逆に、妻オードリーが知らなかった夫のことを、ジェリーが知っていたり。多様な角度から、彼の不在に打ちのめされる。そして、ドラッグで堕ちきっていたジェリーが親友の死によって、その家族の存在によって、立ち直るキッカケを得るという運びも細部が巧み。相手がすぐに明快な救いとなるわけじゃなくて、不確かで危うい状態のまま進んでいくところに真実味があるよね。ジェリーと子どもたちとの関わり方もまたよかった。不幸を背負った男と女が傷をなめ合うようにたやすく男女の関係に嵌っていくのじゃなくて、揺らぎながらも互いに手を差しのべ合っていく、そんなリアルで静かな展開に心温り、確かな満足感を覚えるのだった。

★★★★
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by CaeRu_noix | 2008-04-16 01:28 | CINEMAレヴュー | Trackback(9) | Comments(10)
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Commented by cinema_61 at 2008-04-16 10:33 x
こんにちはかえるさん。
私、主演の2人は特に好きではないのですが、今回の作品はステキでした。セクシー度を抑えて、悩み苦しむ表情が・・・・・・・・・。
特にベニチオは、禁断症状から脱するところや、子供たちとの接し方などが、とても印象的でした。ちょっと別なシーンを期待した私は肩透かし?の感じもありましたが、監督がスサンネ・ピアでしたから納得です。
地味な映画ですが、余韻が残りました。
Commented by scarecrow1970 at 2008-04-17 01:17 x
ご無沙汰してます!
シンプルなストーリーですが、逆にすっと心に入ってくる良い映画でしたね。

>不幸を背負った男と女が傷をなめ合うようにたやすく男女の関係に嵌っていくのじゃなくて

てっきりそんな展開になっちゃうのかなぁ…と思ってたのですが(そうならつまらなかっただろうなぁ…)、傷を癒しあう二人の心の軌跡がじっくり上手く描かれていて良かったと思います。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-17 07:13
cinema_61 さん♪
主演の二人はとてもステキでしたよねー。
私も別にその二人はさほど好きというわけでもなかったです。ハル・ベリーが好きっていう女性はまぁほとんどいないだろうし。ベニっちは、俳優としてはめちゃめちゃ素晴らしいと思うんですが、ちょっとワイルドで濃ゆ過ぎて、スキスキーって思えるタイプでもなかったんですよね。でも、今回のベニっちは今まででいちばんスキスキと思える等身大な役柄だった気がします。悩める表情がよかったですよねー。ヘッドフォンで音楽を聴く何気ない姿とか。子どもとの触れ合いシーンは印象的かつ重要なシーンでしたよねー。このへんも脚本・演出的にもうまいなーって思いました。
確かにねぇ、せくしーなシーンもそれはそれで見てみたかったかも。
でも、これは作品としては、陳腐な方向にいかないところが味わい深かったですよねー。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-17 23:34
scarecrow1970 さん♪
コメントありがとうございます。ご覧になりましたかー。
そうなんですよ。スーッと心に浸透してくるという感じでした。
あらすじはいたってありがちなんですが、きめ細やかな語り口だったので、ググっと入り込むことができました。変に複雑にするより、シンプルな筋書きというのがむしろよかったですよね。
そうそう、主演格に男性・女性の二人が配置されるとまずは恋愛ものなのかなって思ってしまうんですよね。見始めるうちに、私はそういう映画じゃないんだなって思いましたが、ちょっとした成り行きでそういう方向に行ってしまいかねない微妙さがずっとありましたよね。それもまたドキドキ感があったし、結局のところは、ゆっくり癒し合う二人が描かれていたというのがよかったですねー。
Commented by jester at 2008-04-18 20:35 x
こんばんわ♪

>先にこの脚本があって、プロデューサーのサム・メンデスがビア監督に白羽の矢を立てたらしい。

へえ~~そうなんですね!
「ある愛の風景」をハリウッドでセルフリメイクするとかいう噂があって、これって出だしの部分や設定が似ているので、もしかしてそうなのかななんて一瞬思ったりもしましたが、全然テーマがちがいました。

デル・トロがやけに素敵に見えました~
Commented by 真紅 at 2008-04-18 23:36 x
かえるさま、こんにちは~。
デル・トロ素敵でしたね~。最初、旦那さんのほうに目がいってたのですが、禁断症状演技が圧巻でした!
ハリウッドに行っても、「スサンネ・ビアが撮った映画」になっていてうれしかったです。
これってサム・メンデスが偉いんでしょうか??

スサンネ・ビアが作る映画って、いっつも大きな愛を感じるんですよ。
包容力っていうか、導かれる力っていうか。それが人間の「再生」力なのかもしれないんですけど。
希望を見せてくれるところが好きです。
あと、私は『ある愛の風景』に似てるなって思いました。リメイクはまた別の映画ですけど。。ジェイク~♪
ではでは、またです~。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-20 23:52
jester さん♪
公式サイトにそう書いてありましたよー。
母国ならば、監督の意向で脚本を選んだりするのでしょうけど、ハリウッドの場合は、まず企画ありき、脚本ありきなんですよねー。

>「ある愛の風景」をハリウッドでセルフリメイク

んん?ジム・シェリダン監督が撮るやつとは別に、ビア監督自身がハリウッドでもまた同じ物語を撮るという噂???
さすがにそれはないでしょうね。でも、確かに似ている部分がありましたね。
このデルトロはホーントにステキでしたわー♪
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-21 00:00
真紅 さん♪
だんなさんもそれは反則っていうくらいステキでしたよねー。
でもって、デルトロっちもすんごくよかったです。
演技がうまくて存在感があるから、とことんワイルド系な役が多かったゆえ、元弁護士っていう役どころは案外新鮮でした。
それでいて、ヤク中演技も完璧でしたねー。
英語でハリウッドでも自分のカラーで撮れる監督はさすがですよねー。
サムメンデスも偉いのじゃないかと思います。目利きプロデューサー。
でも、こういうのって、アメリカではうけるのでしょうかね??
スサンネ・ビアの目線って、すごく達観している感じですよねー。
やはりそれは愛というものなのかしら。理知的な冷静な視線も同時にあるのだけど、包容力いっぱいの優しいまなざしが感じられますよねー。
波乱万丈で翻弄されつつも強く導く力に引っ張れれます。
そうですね。私も『ある愛の風景』に似たシチュエーションだなぁと思う部分がありましたー。兄弟二人の役割をトロが一手に引き受けていた感じ。
Commented by 睦月 at 2008-04-23 23:43 x
こんばんわ。
かえるさんのレヴュー読みながら、またちょっと涙が出てしまいました。
そうそう・・・そうなの。
あの2人の距離感・・・不自然に癒しあうわけでもなし、何かドラマティック
な展開があるわけでもなし、ごくごくリアルにごくごく静々と少しずつ
寄り添っていく2人の様子や、それを見守る子供や近所の人々の存在が
とっても胸に迫る作品でした。

ほぼスッピンだったろうハル・ベリーの美しさもさることながら、
やはりデルトロの存在感のすごさ・・・とっても繊細で、とっても
イイ人間で(←でも薬中)、なんかね、ホントに絶妙で難しい役どころを
きっちり魅せてくれたなあって思ったんです。

よい作品でございました。
好き。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-26 07:15
睦月 さん♪
スッと心に染みる、余韻の残る作品でした。
2人の表情を思い出すだけでウルっときちゃいますよね。
この距離感が絶妙でしたよねー。
男と女の間に描かれる関係性というとパターン化されたものが多いから、こういう微妙さがアメリカの映画で描かれたことが嬉しくなりました。
子どもとのやり取りもさりげないのだけどリアルでウマイんですよね。
前作でもそこのところは素晴らしくて、さすが女性監督という感じでした。
ご近所さんもゾディアックの時とは大違いの人間味がよかったですね。
そして、主演の2人の演技の素晴らしさったらなかったです。
繊細という言葉につきますよねー。デルトロ、ヤク中でもカッコイイんだもの。
睦月さんがこういうのも気に入ってくれるのは何だか嬉しいっす。
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