かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『フィクサー』
2008年 04月 20日 |
消えゆく正義を取り戻せ。

NYの大手弁護士事務所に勤めるマイケル・クレイトンは不始末のもみ消し屋“フィクサー”だった。



ジョージがマイケル?
毎度お馴染みという感じのアメリカの社会派ものなのだけど、このソダーバーグ×クルーニーシリーズ?は好きなんだよね。それは、エンタメ・サスペンスのために社会派な題材を誂えたというのではなくて、現代社会に横たわる問題を描こうという誠実な姿勢がまず感じられるからかな。絵空事ではない現実的な事件が描かれているから、傍観できずに見入ってしまうのだよね。それもそのはず、ベテラン脚本家トニー・ギルロイが現実の世界で目にしたことを題材に、綿密に取材を重ねて書き上げたものらしい。この手の社会派サスペンスというと、しっかりとした原作小説があるパターンが多い気がするのだけど、本作の物語は映画のためのオリジナル脚本なのだね。それも書き始めたのは8年も前だったという入魂の一作。そして、ギルロイが自らの手で初メガホンをとったわけなんだけど、真摯で力強い見ごたえのある確かな映画に仕上がっていたな。

ジョージ・クルーニーは、別段好きな俳優というのでもないけれど、『グッドナイト&グッドラック』 の時にでそれまでの自分の見方が偏見だったことに気づいて大いに見直した、その気概に惚れている応援したい映画人なの。だから、社会派映画に登場するジョジクルを見るだけで嬉しくなってしまい、序盤からスッと主人公マイケル・クレイトンに心寄り添って、そのスリルとサスペンスを堪能したのだった。上司役がシドニー・ポラックというのにも輪をかけてワクワク。その役どころがグレーであればあるほどに、表現者としての立ち位置はそれとは逆なんだなぁと感じられる気がして。正義の看板を掲げている弁護士がクリーンではないという現実には気がめいってしまうものがあるけれど、他方でそれを問題視する人たちがいて伝えてくれるのだ。もみ消し屋を主役に据えながら、不正をもみ消すなっていう方向を向いているのがクール。

助演女優賞のティルダが演じた大企業の法務担当者カレンのキャラクターも実に興味深かった。彼女はただの忠実な企業人で、悪いことをしようと思っているわけではなく、自分の仕事を一生懸命に賢くこなしているだけなのだよね。でも、やっぱり自分の職務を全うすることにいっぱいいっぱいになって、葛藤も押しやり、全てを自分達の利益不利益という尺度でしか測れなくなってしまうことは、客観的に見るととても恐ろしい状態。そういった局面は、多かれ少なかれどんな職業、どんな仕事にもついてくるものだと思うから、彼女が特殊だと断罪することはできずに考えさせられてしまう。鏡の前で話す練習をしている場面にはむしろ感情移入してしまうほどだった。それなのに、有能なその女史は、刺客派遣までしてしまうなんて恐ろし過ぎる。『ノーカントリー』の、超人的な得体の知れない殺し屋に追われる恐怖よりも、組織の不正を暴こうとした者が命を狙われるというこの恐怖の方が私には身震いするものだったな。

地獄の沙汰も金次第という現実には、何度となくうんざり。今の日本でも商品の偽装なんかは日常茶飯事で、企業が利益を最優先する傾向にあるということを実感することは多々あるけれど、消費者や住人の健康や命までもを危険にさらすことが度外視されるのは恐ろしい。そして、起きてしまったことは罪を明らかにして補償すべきなのに、結局とことん金に物を言わせて、不利益を避け続けようとするなんて。「沈黙の春」のことを忘れちゃったのかと、農薬が問題というのがまた腹立たしい。そして、被害者の味方であるはずの弁護士にとっても、収益が最重要項目になっていることにため息。だから、トム・ウィルキンソン扮するアーサーの良心と勇気には大いに心うたれたし、真実に近づいて自分なりの答えを見出すマイケルにもググっと共感するの。混濁したこの社会を描きながらも、正義がキラリと輝く物語になっているのがよかったな。

車を降りて、馬で命拾いをしたあの場面がとても好き。大都会のコンクリートジャングル、人いきれの環境の中でフィクサーの仕事を続けてきた男が、命からがらに車を走らせていた最中に、自然の中の美しい馬の姿に目を奪われる。しばらくの間忘れていたに違いない感動が心を洗い、人間性を取り戻すことができたのだね。本来、世界はこんなふうに美しい風景のものだったのじゃないかなって。

★★★★
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by CaeRu_noix | 2008-04-20 23:41 | CINEMAレヴュー | Trackback(13) | Comments(8)
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Commented by ryoko at 2008-04-22 23:53 x
TBありがとうございます。
レイチェル・カーソンの「沈黙の春」から半世紀近く経とうとしているのに、何にも変わっていない、何も学んでいないということでしょうかね。
こういう事件って現実にも結構あるんだろうなと思いました。
これからも宜しくお願いします。
Commented by ノラネコ at 2008-04-23 00:04 x
静かな美学のあるいい映画でした。
「ノーカントリー」のインパクトは無いけど、こちらの方が普遍的ではあったと思います。
世界中の誰がみても、感じるところのあるストーリーですよね。
Commented by となひょう at 2008-04-24 21:27 x
うふふふふ、私もお馬さんのシーンは大好きでしたよ。
ひたすら骨太な空気が続く中、あの場面だけ際立って見えました。
マイケル・クレイトンは、まだまだ生きてやるべき事がある。
あそこで死なせる訳にはいかない。
とばかりに、神が舞い降りたと言っては大袈裟ですが。
とてもスピリチュアルで美しい場面だなぁと思ったのです。
「あの場面は何?」と、疑問を投げかかる声を多く見かけたので。
お馬さんですもの、かえるさんの感想が聞きたいなぁと思っておりました。
かえるさんも楽しめたようで何よりです♪♪♪
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-25 07:07
ryoko さん♪
こちらこそ、ありがとうございます。
そうなんですよねぇ。「沈黙の春」は世界中の多くの人々が読んだはずなのに・・・。結局は、目先の利益の方が大事ってことになるのでしょうかね。
ホント、こういう事件は現実にいくらでもありそうです。だからこそ、単なるエンタメとしてだけじゃなく、身も凍る思いで悔しさもいっぱいで見ることができましたが。アメリカらしいテーマというのがよかったです。
今後ともよろしくお願いしますー。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-25 07:10
ノラネコ さん♪
題材は目新しくもないんですが、そう、美学が感じられました。
インタビュー記事によりますと、シドニー・ポラックの『コンドル』だの、シドニー・ルメットの『狼たちの午後』だの70年代の映画のタッチを取り入れたそうですね。
今時ハリウッド映画とは違うそういう質感が魅力だったのかなぁと思います。
『アメリカン・ギャングスター』のことも思い出しつつ、大いに感じることのあるストーリーでした。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-27 11:07
となひょう さん♪
お馬のシーンは美しかったですよねー。
こういう都会の職業社会派作品で自然の美しさに出会えるとは意外で感銘も大きかったですー。
美しい馬の姿を見て、すいこまれるように近づいて行ったあのシーンでマイケル・クレイトンにググっと共感しちゃいました。あそこにいたる状況がまだ何も描写されていなかった1回目のお馬のシーンもそれだけでポイントアップな感じでした。
あの風景は本当に美しかったから、足を止めて、すいこまれちゃって当然です。そういう本能的な動作が命を拾いにつながったってめちゃめちゃ素晴らしいと思うのです。それまでは彼にとっては行動をすることって、結果や目的を頭の中で計算してから実行するのが起こすものというのが常だったのでしょうけど。
あと、彼の息子のハマっていた物語「王国と征服」も意味ありげな存在で結構気になっていたのですが、そういった物語の中に馬が登場するのも常なので、関係があるのかもしれませんね。
Commented by SGA屋伍一 at 2008-05-02 21:35 x
お馬のシーンへの思い入れが強く感じられます。お馬を愛するかえるさんらしい感想ですね

わたしは小さなところで働いてるのでマイケルのようなジレンマを感じたことはほとんどないですけど、大きな企業に勤めている方は誰しも経験することなのかもしれませんね
かえるさんももしかしたら上の意向とご自分の良心の間で苦しまれたことがあったのでしょうか

「口で言うのは簡単だけれど、『正義を行う』ということはけっこうな代償が伴うこと。それでもあなたはやりますか?」  作り手からそんな風に問われた気がしました 
Commented by CaeRu_noix at 2008-05-04 23:04
SGA屋伍一 さん♪
お馬の登場はポイントが高いですともー。
それも、いかにもそういった動物が出てこなそうなタイプの映画ですからね。
ファンタジー映画の世界では、正義のヒーローはまっすぐに進んでいくものなのに、現実の社会はこんなにも混濁しているという対比の中、マイケルの行動がそっちに近づくっていうのがいいです。
社会生活はジレンマだらけですよねー。うーん、私もマイケルと同じような類のジレンマには陥ったことはないですけど、企業・組織のシステムというのは理不尽なものが多いですから、良心とか正義とかっていう次元じゃなしに、そんなことするのは間違っているでしょーって思うことは多々あり、以前はよくキーーーってなってました。(笑) 企業の規模にはあまり関係はないと思いますが、業種職種によって重みは違うでしょうね。人の命や健康にかかわること、人生を左右することにかかわることは重大ですよね
その立場に立たされたら自分は果してどう行動できるか、実に難しい問題を投げかけているからこそ、観ごたえがありましたね。
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