かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『今夜、列車は走る』 
2008年 04月 24日 |
列車は走る姿が素晴らしい。地味だけど、胸をうつ群像劇。

アルゼンチンでは、91年からの鉄道の民営化で赤字路線が廃止され、多くの鉄道員が失業に追い込まれた。鉄道で栄えたとある田舎町では、路線廃止の決定が下され労使交渉していた組合代表が自殺する。



この映画のことを知った時に、ケン・ローチの『ナビゲーター ある鉄道員の物語』のことをすぐ思い出したのだけど、方々でこのアルゼンチンの新鋭監督ニコラス・トゥオッツォはケン・ローチの後継とも言われているらしい。国の経済政策によって、地道に働いてきた人々が失業を余儀なくされるという、まさにケンローチ映画の世界が地球の裏側アルゼンチンから届けられた。どこの国も同じなのだよなぁ。遠い遠い国の物語だけど、景気は好調と言われていながら格差が顕著になり、生活苦にあえぐ人々もあふれる今の日本から見ても、他人事とは言えない市井の人々の姿が描かれている。

中南米の国々には情勢が不安定な国が多いから、アルゼンチンという国は今は比較的近代的で落ち着いていると思われ、南米のパリと呼ばれるブエノスアイレスの洗練された町の姿が象徴的なものになっていた。だけど、そんなものはもちろん身近でない国のことをまるで知らない自分の表層的なイメージに過ぎなくて、どこの国も変わらないのだよなぁと思える人々の日常生活がそこにある。アルゼンチンのほのぼのロードムービー『ボンボン』 でも仕事をクビになったオジサンが主人公だったけれど、こちらはもちろん失業が主題なのでもっとシビアなタッチ。みんな精一杯生きているんだよね。

分割民営化政策によって、およそ6万人の鉄道員が失業したという現実を1本の映画にしたためた監督の真摯な姿勢を買いたいな。映画の方は最初、あまりにも地味に進んでいくので、序盤はなかなか入り込めずにいたのだけど、徐々にこの物語が好きになっていった。登場人物それぞれの抱えている暮らしと苦難に胸が痛くなった。とりわけ、ぜん息の息子をもつダニエル夫婦の姿はやるせなかったな。養う家族がいるのに収入の見通しがたたないのって思う以上に過酷な本当に状況なのだよね。生活が不安定になると家族の関係もギスギスしてしまうのが常。気のいいオジサンが追い詰められていくのも心苦しくて。

主役は失業に追い込まれた大人の男たちなのだけど、時折登場する彼らの息子たちの姿にも心惹かれるものがあって、彼ら三人を映し出す雨のストリートのきらめき、演出のタッチが青春もの仕立てになるところが好きだったな。そう思って見ていたら、その彼らがラストで思いきり私好みの行動を起こしてくれたから、高揚感に包まれた。走る列車の映像はただでさえワクワクするのだけど、これはあまりにも映画的にステキだ。組合代表の息子アベルもどんなにか悲しい思いをしたに違いないけれど、そこで負の連鎖に巻き込まれるのではなく、出口の光を見つけようとする意思を見せてくれるのは嬉しいよね。同時に悲劇もおこるラストだったのに、次の世代に託された希望の光に心あたたまるのだった。

列車は大陸を走り、人は労働して、生きていく。

★★★
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by CaeRu_noix | 2008-04-24 07:15 | CINEMAレヴュー | Trackback(9) | Comments(8)
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Commented by 風情♪ at 2008-04-24 09:57 x
こんにちは♪

親の苦しみは自分たちの苦しみ、親だけではなく自分たち
も何かしらしなければいけないと言う思いから、子供たちが
行動を起す様は素晴らしかったですよね。
ボクもK・ローチ監督の「ナビゲーター~」を思い出しました♪
(゚▽゚)v

先日は不遜なコメを残してしまい申しワケなかったです。
Commented by CaeRu_noix at 2008-04-26 07:24
風情さん♪
やるせないエピソードがいっぱいでしたけど、ラストの息子たちの行動にはとても晴れやかな気持ちになれました。
現実にも親が自殺してしまった心に傷をおった子どもはたくさんいると思いますが、この息子のように希望をもつことができたらいいですよね。
題材も同じだし、ケンローチな作風でしたよね。
でも、こちらの監督はまだ若いようで、そんな次世代の登場が嬉しいですねー。

別コメの件は、お気になさらずにー
Commented by mchouette at 2008-05-08 23:30
かえるさん、大阪でもやっと公開。
アルゼンチン映画といい、第三世界の映画って、静かで奇をてらってなくって、それでいてガツンとくる。
列車がスクリーンいっぱいに映し出されたときは、ちょっとウルウル。

Commented by CaeRu_noix at 2008-05-09 23:11
シュエットさん♪
南米の映画っていうのも大好物ですー。
私もシュエットさんのあげられていたボンボン、僕と未来とブエノスアイレスともにお気に入り。
列車のシーンには私もやられました。映画的にも最高でしたよねー。
Commented by ゆるり at 2008-05-10 14:20 x
かえるさん、こんにちは。
前半、地味な展開でしたねー。この盛り上がりのないゆったりとした展開が逆に元鉄道員一人ひとりの個性を浮き立たせてる感じがして、個人的には好みでした。
特に最後迄立て籠ってたブラウリオじいさんが私のお気に入りです。

ところで、アティリオの白タクっぽい仕事って結局ヤバい仕事だったんでしょうか?ニセ札(?)のエピソードの辺から理解力のない私には今ひとつわかりませんでした。情けない。。。。。

3人の若者達、爽やかさを感じるラストも素敵でした。
Commented by CaeRu_noix at 2008-05-12 00:29
ゆるりさん♪
ぞうなんですよ。前半はちょいと退屈さを感じたりもして、しっかとドラマに入り込めなかったのが残念でした。でもでも、徐々に引き込まれていきましたよねー。群像劇も素朴な人たちを描いたものも大好きなので、私にとっても好みのものでした。もうちょっと、思い切り感情移入しちゃう誰かがいたら尚よかったかな。
ああ、私もブラウリオじいさんはすごく好きでしたー。修理工場の彼のシークエンスにはよかったですよねぇ。
うーん。アティリオの運転手の仕事は、ちゃんとした就職先っていう感じでもなかったようなので、充分にヤバさをはらんだお仕事だったんじゃないでしょうか。運が悪かったというのもあるのでしょうけれどね。
そんなこんなで悲しいエピソードもいっぱいでしたが、息子たちの行動には爽快なものがありましたよね。次世代にたくされた希望っていうのがステキなラストでした。
Commented by Nyaggy at 2008-06-12 22:06 x
かえるさん、こんばんは~。
この作品、名古屋ではようやく公開になったんですよ。
失業した男達みたいに、自分もつい気分が沈んでしまったんですけれど、
最後の若者達の行動には、救われた気分になりました。
確かに、雨の中を走るシーンなんて青春モノのタッチでしたね。
列車が走るシーンには心が躍って、地味ながらも好きな作品でした。
貴重な南米の映画は、これからもじゃんじゃん公開して欲しいです~。
Commented by CaeRu_noix at 2008-06-13 23:26
Nyaggy さん♪
名古屋にもたどり着いたのですね。
こちらの上映期間は短めだった感じなのですが、それでも普通なら配給もされないであろう、地味なアルゼンチン映画が公開され、東京・大阪くらいで終わらずに、名古屋にも到着したというのは喜ばしいですよね。
(有)アクションさん、がんばってほしいです。

すんごくリアルな出来事が描かれていましたよね。
慎ましやかに日々を生きる普通の人々が不遇を味わうのって本当にやるせなくって、どよーんとなってしまいますよね。
でも、どん底に落とされるだけじゃなくて、次世代の前向きさが見えたのには心が軽くなりましたよねぇ。
映画に登場する列車は大好きです。やっぱり走る場面が最高。
ホント、今年は少なくて寂しい、ラテンな映画。かもーん。
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