かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『大いなる陰謀』 Lions for Lambs
2008年 05月 13日 |
青年よー!



トム・クルーズ、メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォードのビッグなお三方がでででーんと並んでいる写真に、この邦題じゃ、観に行きたいという気がまるで起こらない作品だったのだけど、実際はイメージしていたものとは違っていて、私はとても楽しめちゃった。

レッドフォードの監督作は全部観ているわけじゃないけど、監督と主演俳優を兼ねると意のままに自分を演出しちゃうのはスター俳優のサガかなぁと、以前はもうちょっとナル度の高い印象があった。だけど、爽やか二枚目俳優も歳をとり、カッコいい自分を見せることよりも、若い世代に何かを伝えたいという思いが感じられるストレートな本作には、思いのほか感動してしまった。ロバレといえば、サンダンス映画祭の主催者なのだよね。ある意味、アカデミー賞よりも魅力的なサンダンス映画祭を、立ち上げてくれたことを賞賛せずにはいられない。大好きな『モーターサイクル・ダイアリーズ』がレッドフォード企画であったということも感慨深かったもの。若い世代に真摯に問いかけようとしているその姿勢にとにかくグッときてしまった本作。そんな映画のタイトルに陰謀という言葉を使うのはいただけないなぁ。

ハリウッドといったら、民主党寄りのリベラルな人が多いのは有名だけど、レッドフォードとポール・ニューマンは長年民主党をサポートしているのだよね。だから当然とはいえ、あまりにもあからさまなアプローチにはちょっと驚いた。過去形ではない政治についてのフィクション映画でこんなに固有名詞が繰り返され、近年の現実の出来事と、現在進行形の問題についてピンポイントで語られることってありそうでなかった気がするもの。劇中のTV画面などに、ブッシュの演説シーンが映って、さりげなく批判の目が向けられるというのはよく見かけたけれど、架空の共和党議員の部屋で、関係者の口から、ブッシュ政権とメディアの失策、失態についてが語られる場面はたぶん初めて見るから。壁に飾られたトム・クルーズとブッシュやライスのツーショット写真というのは妙に面白かったな。、トム・クル扮する共和党のホープ、自信家で野心あふれるアーヴィング上院議員は笑えるほどに最高にハマり役で、彼が熱弁をふるうほどに興味深さと不安感が交差する。

リチャード・リンクレーター作品なんかを筆頭に、会話映画って好きなのだよね。そんなウィットのきいた台詞の応酬とは趣を異にした、ディベートで迫る社会派なテーマの会話映画っていうのも緊張感いっぱいに釘付けになる面白さだったな。こういった問答でスリリングな緊迫感をうむものといったら、定番なのは法廷ものくらいじゃないかと思うのだけど、そういう聴衆のいる表舞台ではなく、議員とジャーナリスト、大学教授の学生という一対一の対話が、それぞれの仕事部屋で密かに繰り広げられるということにむしろ引きつけられる。トムとメリル・ストリープの熱い議論はアタマに刺激的で、ベテラン・ジャーナリスト、ジャニーン・ロスの立ち位置に寄り添って、ドキドキさせられた。大学の講義中のディベートの回想シーンも含めて、マレー教授とやる気を失った学生トッドの語らいもそれぞれに正論で、実に興味深いものだった。主なる二つの舞台が対話のみで進む人目のない一室のデスクだからこそ、机上を離れ、自ら行動することを実践した2人が立つことになったアフガニスタン山岳地の寒々しい風景は切実な痛みをもたらすのだった。

現場の兵士の苦難を目の当たりにするにつけ、トムトム議員の自信いっぱいのまっすぐさが空恐ろしくなる。この手の政治家というのは、本当は自らの行為の不正を認識しながらも、頭で損得勘定をした結果、弱者の弊害には目をつぶり、心の中で舌を出しながら権力を行使しているのかなと思っていたのだけれど、ひょっとしたらこういうふうに、目をつぶったり舌を出したりする一瞬の葛藤さえもなく、心底、それが正真正銘の正義なんだと思っているのだろうか?セオドア・ルーズベルトの平和より正義を選ぶという言葉にしたって、自身のとる正義が絶対的な正義だという前提なのがまずどうかと思う。聖戦っていうのとたいして変わらないじゃない。そして、まだまだこれからが自分の見せ場というノリノリのホープ議員のアグレッシブな姿勢とは打って変わって、かつての教え子の選択に戸惑う教授の思いは静かに心に響く。いかにもイマドキ風のケーハクな投げやり学生トッドが、教授の問いかけと真摯な語りには否応なく思考をかき立てられ、心動かされていくその表情がとても印象的。トッドと共に考えさせられる濃密な時間であった。

★★★★
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by CaeRu_noix | 2008-05-13 19:25 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(4)
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Commented by mimia at 2008-05-16 12:51 x
真摯に生きる・・・その言葉がレッドフォードほどぴったりくる映画人はいませんね。
今ふと思い出したんだけど…そういえばテオドール(セオドア)・ルーズベルトの愛したクマちゃんが「テディベア」の原型でした。なんか笑えません?
Commented by CaeRu_noix at 2008-05-18 11:21
mimia さん♪
レッドフォードって、真面目な人なんだなぁってしみしみ思いました。
アメリカのTVメディアは大企業の傘下に入っていて、TVニュースで伝えられることはこの映画で描かれているように偏った報道がされてしまうというなら、こういう風にプロパガンダ映画でアプローチすることもアリだと思ったりするのですけれどね・・・。
私はショーン・ペンなんかの行動が結構好きなので、レッドフォードも応援したくなっちゃいますー。

最近「NHK地球データマップ―世界の“今”から“未来”を考える 」って本をちらちら読んだのですけど、こういう本にはちゃんと、戦争は領土や資源など利権を得るために始められるもので、愛国心が利用されるなんてことが書かれているんですよね。学校の授業ではそういうことって教えてくれるんでしょうか。

おお、テディベアのテディって、ルーズベルトの愛称なんですね。
クマは撃ち殺さないけど、正義のために敵とみなした人間はガンガン殺すのね。(笑)
クマのぬいぐるみは好きだけど、テディベアの容貌はイマイチ好きじゃない私。
Commented by masktopia at 2008-05-20 17:34 x
TBをありがとうございました。

最初から最後まで静かな緊迫感のある作品でしたね。
せりふの応酬がメインではありながら、
席を立つときに不思議と胸が熱くなったのは自分でも意外な驚きでした。
これまであまり意識していませんでしたが、
監督としてのレッドフォードに好感を持ちました。
Commented by CaeRu_noix at 2008-05-21 00:12
masktopia さん♪
コメントありがとうございます。
ホント、最初から最後まで緊迫感に包まれて、前のめりで観てしまいました。
私はミニシアター作品が好きなので、シネコンで観る有名俳優の出ている映画には、そんなにのめり込めないことも多々あるんですが、これは本当に面白くて、トム・クルーズの出ている映画でこんなにハマれたのは久しぶりです。(笑)
私はこれを鑑賞中は結構ナミダも流れました。巷ではアレって感じの唐突なラストだったらしいですが、私にとってはとてもいいタイミングの終わり方で、本当に胸が熱くなりましたよね。
以前から、レッドフォードにはわりと好感をもっていましたが、これまでの監督作のいくつかは気に入ってないものもあったんですよ。
でも、まっすぐな本作には拍手をしたいですねー
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