かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『さよなら。いつかわかること』 Grace is Gone
2008年 05月 15日 |
せつなく優しく。

シカゴのホームセンターで働くスタンレーは、12歳の長女ハイディ、8歳の次女ドーンと暮らしていた。妻のグレイスは・・・。



サンダンス映画祭で観客賞、脚本賞を受賞した本作は、音楽がクリント・イーストウッド作曲のもので、自身の作品以外にイーストウッドの曲が提供されるのは初めてのことだそう。つまり、イーストウッドに認められた、彼の心を動かした物語であったということだよね。ハリウッド映画に多い重厚で仰々しく雄弁すぎるオリジナルスコアが苦手な私だけど、イーストウッドの音楽はとても好き。『硫黄島からの手紙』よりも『父親たちの星条旗』が好きだったのだけど、音楽もその一因だったのだ。心に染みる美しいメロディ。

本作に似た部分のあるテーマ、最愛の家族を失ったものの喪失と再生ドラマであった『悲しみが乾くまで』のヨーロッパの女性監督ならではの繊細な表現力を味わった時、アメリカ人監督、男性監督には、ここまできめ細やかな描写はできないだろうなんてことを思ったのだけど、それはこんなにもすぐに前言撤回することになった。むやみに観客の涙を誘うようなしらじらしいお涙頂戴場面は一切ないのだけれど、静かに丁寧に主人公の心情が描かれていて、さりげないのだけども自然で的確なその演出は、観る者の心をグッと掴んで離さない。オープニングが素晴らしく、職場の倉庫を独り覇気なくトボトボと歩くジョン・キューザックの姿を目にしただけで、そこに充満する哀しみと空虚がこちらにも伝染するのだ。留守番電話の母の応答メッセージによって、母の不在が伝わってくる。映画が始まってまだ数分もたたないうちに涙が頬をつたう。筋書きはわかりきったものだったのに、悲しくてせつなくて、彼ら3人に心寄り添い、共に旅をすることになるのだった。

脚本と演出も見事なのだけど、その良さを十二分に体現してくれた主人公の父親役のジョン・キューザックの演技がまた素晴らしい。ジョンキューはいいなぁってしみじみと思った。自然太りなのか、役作りでの体型改造なのかは知らないけれど、中年の父親らしいでっぷりとした体格が哀愁を帯びていて、望んだ仕事を自身は全うできずにそれを妻が担っているという複雑な立場において、母親の不在を寂しがる娘たちと不安な日々を送る父親のやるせない心情が具に伝わってくるのだ。そこに妻の訃報が飛び込んできて、自身も愛する人を失った悲しみをきちんと受け止められない状態なのに、娘たちにそのことを知らせなければならない辛さったらない。自らの喪失感で崩れ落ちてしまいそうなのに、母を失った娘たちを包み込むのが父の役目であるから。そんな父の不安定さを察知する長女ハイディの敏感さがたまらなく、それぞれの思いに交互に心揺さぶられて、ダブルで胸をうつ物語。

12歳と8歳の娘がいても、イラク出征することになった軍人の母親。なんて志の高い人なのだろう。女という生き物は男以上に自分の半径数メートルの身内のことだけで頭がいっぱいになるものじゃなないのかと思うけど、その母グレイスの視野はもっともっと広く、多くの人々や国のために戦っているんだ。その志には敬意を払いたい。だけど、やっぱり、母である貴方が行かなくてもいいのになぁとも思う。小さな娘たちに寂しい思いをさせて、危険と背中合わせで、挙句の果てはその大切な命が奪われてしまうなんて。大切な命が奪われたそのイラク派兵の軍事がそもそも正当性に疑問のあるものだったりするのがまた居たたまれない。正義の志を持つ勇敢な人間の命があっけなく失われ、家族が大きな悲しみに見舞われる姿を通じ、反戦への思いが静かに伝わってくることも味わい深い。

父親と娘が残されるという状態は一番難しいように思う。母親と子ども、父と息子という方が歩み寄りやすいのじゃないかな。徐々に成長していく娘に父親は気を使ってしまうものだろう。同時に、多感な時期の長女の方も父の心情を敏感に感じ取ってしまうのがいたたまれない。まだ無邪気なばかりの8歳のドーンのお姉ちゃんとして妹を支えなくちゃという思いがまたせつない。でも、1人娘じゃなくて、姉妹だったのがよかったな。それぞれがとてもよいバランスで支え合っているのだ。母の不在を寂しく思いながらも、互いが思いやり合うこの温かな家族ならば、この悲しみをきっと乗り越えていけるよねって思う。ピアスを刺す痛みを噛みしめて、2人は大人になっていくんだろう。

★★★★
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by CaeRu_noix | 2008-05-15 08:10 | CINEMAレヴュー | Trackback(14) | Comments(0)
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