かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『痛いほどきみが好きなのに』 The Hottest State
2008年 05月 25日 |
イーサン・ホークの感性にキューン。

ニューヨークに住む若手俳優のウィリアムは、行きつけのバーで、シンガーソングライター志望の女性サラと出会う。



『マイ・ブルーベリー・ナイツ』を観た時に、ウォン・カーウァイみたいな繊細でロマンチックなラブストーリーを撮っちゃう男性監督ってアメリカにはいないよねーってなことを思い、いや、イーサン・ホークがいるじゃないっていう結論に達した。もちろん本作を観る前のことだったのだけど、そんな読みは自分的にはかなり当たっていた気がする。『ビフォア・サンセット』の共同脚本はもちろん、初監督作の『チェルシーホテル』もそのセンスに惚れた1本だったんだけど、自伝的小説を自ら映画化したこの2作目もまた私好みの詩的な胸キュン映画であった。世間一般的にはどうってことない映画なんだろうけど、私は大好き。

マッチョの国アメリカ(それも出身はテキサスなんだね)では、エンタメ作品でもアカデミー賞ラインでも、ハードボイルドな男臭さが求められているようで、成人男性がウジウジ恋に悩む物語なんて、コメディというジャンルでもないととんと見かけない。イーサン自身も「女性が恋をあきらめる物語はたくさんあるけれど、男性版は読んだことがなかったから自分で書こうと思った」とそうコメントしていた。巷では、需要もあまりないのかもしれないし、そういう女々しさはこっ恥ずかしいものだと否定されるばかりなのかもしれないけれど。情けなさと紙一重のガラス細工の心を、封印したり鞭打ったりせずに優しく抱きしめようとするイーサンの繊細な感性がとても好き。

勝手に 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』から連想したついでに、まさかこちらでもノラ・ジョーンズの歌声が聴けるとはね。音楽を手がけているのは、ノラジョンの大ヒット曲「Don't Know Why」を作ったジェシー・ハリスなのだ。サラのバンドのメンバー役で出演もしていた彼だけど、本物のミュージシャンだとは思わないほどに、メガネの優しいまなざしで、自然にその場に溶け込むステキな人。そんなハリス効果もあって、今回もまたイーサンの音楽のセンスにしびれてしまった。情感いっぱいに音楽で語られる映画なんだよね。だから、主人公の相手役の彼女サラがミュージシャンを目指しているという設定からして魅力的で、ステージシーンも嬉しいものだったし、彼女が彼の部屋でギターを弾き語る場面は映画的に最高にステキ。アコースティックギターの調べはせつなくていいなぁ。リリカル。

彼女サラの心が掴めずに悩めるウィリアムは、見ていて本当に情けなくて痛々しいほどなのだけど、ハートが呼吸困難を起こしちゃうほど追い詰められた思いが切なく伝わってくるの。『焼け石に水』のキャッチコピーの"より多く愛するものは、常に敗者となる"という言葉を思い出したりするほどに、両者が互いに抱く恋心の質量が不均衡だと、どちらが悪いわけじゃなくともこんな苦しみがもたらされてしまうのだよね。これまでは健気な役ばかりだったカタリーナ・サンディ・モレノが今回は結果的に男を振り回してしまう彼女役なのだけど、男心を弄ぶ悪女などではなくて、自分の夢に向かって進むしっかりとした女の子。そんな彼女も実は以前の恋では、逆の立場で痛手を負っていたというところがまたリアル。悪気があるわけじゃなく、その時の恋愛状況に応じて、たまたまつれなくしてしまう方だったり、される方だったり。どちらの状況にも思いあたるものがあるから共感してしまうの。

イーサンの自伝的な小説といっても、この恋愛体験そのものがそうであるわけではなく、一番のポイントは親との関係性らしい。そう、シンプルなラブストーリーと思いきや、親との関係性が大きな意味をもっていると感じられるところが味わい深かった。ローラ・リニーが母親役で登場したせいか、『イカのクジラ』に通じるテーマがあぶり出されてくるのだよね。そんなことが序盤からにおわされて、やがて最後にはウィリアム自身がそのことから目をそらさずに克服しようと行動するところには爽やかな気分になれた。その重要な父親役をイーサン自身が演じていることがまた嬉しいのだ。さんざんウジウジくんの姿を見せつけられたのに、何だか清々しい青春映画にも思えてきたりして。

ラテンな彼女というのとは関係なく、メキシコに旅に出るっていうのも私好みだった。原作小説では、2人の旅先はパリだったらしい。それをメキシコにかえたのは、イーサンが『天国の口、終りの楽園。』を気に入ったからなのだって。あの素晴らしき青春ロードムービーの影響を受けたっていうのがまた嬉しいな。ともに音楽が印象的な映画。こちらはロードムービーではないのだけど、車のシーンがすこぶる印象的なのだよね。アメ車がゆっくりと走り出す様は絵になるんだよね。アメリカ映画らしいビジュアルの決め方で、ウィリアムの心の一つの再出発を表わしているのが粋なのだ。ウィリアムの姿に、イーサンの若かりし頃のやるせない思い、と大人になった現在の大らかな思いが重なってくる。

★★★★

『チェルシーホテル』が無性に観たくなり、レンタルしてきちゃった。
これ、また劇場で観たいなぁ。ジミー・スコット最高です。いえ、すべてが。
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by CaeRu_noix | 2008-05-25 08:34 | CINEMAレヴュー | Trackback(8) | Comments(6)
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Commented by シャーロット at 2008-05-30 01:39 x
イーサンの「チェルシーホテル」は未見なのです;というか、彼が監督していた作品があったのも知らなかったの。本作を見てから、コレが2作目だと知って…。彼にこんな才能があったなんて…バンデラスの監督の才能に痺れたように、イーサンも俳優としてより監督とか脚本家として私は好きになりそうです。すごくセンスいいですねえ。びっくり。そう、胸がキュンキューン。音楽にまず惚れて。そしてこの感傷的な雰囲気に惚れて。そしてリアルさある台詞回しに惚れて。
イーサン、もっと映画撮ってくれーって感じ。笑
レンタルするぞー。わくわく


Commented by CaeRu_noix at 2008-05-31 20:39
シャーロット さん♪
『チェルシーホテル』はマイナー作品なのかなぁ?
基本的にヨーロピアン贔屓の私なので、アメリカ人俳優にはすごく好きな人ってそんなにはいないのですが、イーサン・ホークはそのルックスが好みだったりして、前から結構好きだったんですよね。「リアリティ・バイツ」とか。で、俳優としてもわりと好きだったうえに、チェルシーホテルを観て、そのアートな感性に惚れましたのですー。
ああ、そうですな。去年の映画祭で観たバンデラスの監督作品のセンスに通じるものがありますね。繊細にせつなく詩的ー。
ショーン・ペンなんかも俳優としてより監督として好きだったりするんですが、彼の場合はここまでセンチメンタルには走らないか。
ホント、俳優業でちょっと稼いでは、どんどん映画を撮ってほしいです。w
小説の方もちゃんと素晴らしいらしいので、読んでみたくなりましたー。
『チェルシーホテル』は再見したらDVDを買いたくなりましたし。
Commented by rose_chocolat at 2008-05-31 21:55 x
こちらにもコメントありがとうございます。

どっちかというと、ジュリーの作品の方が予告が期待できちゃったことと、この映画の時に何か体調悪いなあ・・・ と感じていたので、集中力がなくなってしまい、重要な部分が飛んでました。なのですごく雑な感想になってしまっており・・・ かえるさんのようにきちんとご覧になっている方に申し訳ないです^^;
ちゃんとパワーがあるときにでもDVDでもう1回観たいと思います!
Commented by CaeRu_noix at 2008-06-01 01:04
rose_chocolat さん♪
こちらにはコメントしてなかったんですが(笑)ありがとうございます。
コミカルに爆裂するジュリーの作品とは正反対のタッチでしたねー。
こちらはそういう感傷的なせつない雰囲気が魅力だったのですが、眠くなっちゃう人もいるであろう作風ですよね。
この二人は本当に惹かれあっていたと思うのですが、サラの方が恋愛モードではなくて、今恋愛よりも力を注ぎたいものがあったんですよね。
ウィリアムはウィリアムで彼女に病的に執心しつつ、親のことが浮き彫りになってきたりと、いろんな要素が重なって、うまくいかなかった感じかなと。
人によってはかなり退屈な映画かもしれませんが、私にとってはとても好きなタイプでしたよー。雰囲気重視。
Commented by cinema_61 at 2008-06-03 20:55 x
こんばんは。
こんなマイナーな映画を観て、レビューを書いてくださるブログがあるなんて感激です。
イーサンホーク命の私は映画鑑賞仲間からバカにされ(何であんあなしょうもない男好きなの?・・・と)、いつもイーサンの映画は一人で観て一人感動しています。
今回の映画も彼の繊細なカメラワークやセリフ、そしていい音楽の流れの中で、「男の失恋話だって堂々と言えるんだ」と開き直っている彼が好きです。ユマとの結婚生活もきっと振り回されていたのだろうな・・・・・・
「究極のナルシスチックな映画」と言われてもかまわない・・・と彼も言っているように、好き嫌いが分かれる作品でしょうけど、ヴェネチァ映画祭に参加しているのだから、見所はあるのよね。(博報堂さんが買い付けたのには感謝!)
私「ビフォア・サンセット」が大好き!登場場面はすくないけど、「いい顔」になったと思ったわ。4月に「笑っていいとも」に出ていたときは、もっと若々しかったけど?
Commented by CaeRu_noix at 2008-06-05 01:17
cinema_61 さん♪
イーサン・ホークといったら、かなりメジャーな存在と思っているんですが、主演俳優的にはマイナーな映画ですかね、これって。(笑
私もね、イーサンは大好きなんですよ。『いまを生きる』はリアルタイムでは観ていなかったのだけど、『リアリティ・バイツ』あたりで注目したのかな??
最近はちょっとおでこのしわが目立っているのが残念なんですが、20代の頃の前髪おろしている時の顔がとっても好みで(笑)、アメリカ人俳優の中では5本の指に入るくらいの好き度かもしれません。
初めは見た目が好みっていうだけだったんだけど、チェルシーホテルでそのセンスにもクラっときちゃいましたですよ。
そして、私も 「ビフォア・サンセット」が大大好きですよー!
今作もまためいっぱい感傷的にせつなくロマンチックでよかったですー。
こんなにアートにナルちゃんなのは、イーサン・ホークか、ヴィンセント・ギャロかって感じですけど、ナルでオレ様なギャロよりか、ジェントルなイーサン。
私もこれを見て、繊細なイーサンはウマちゃんとの不仲時にはさぞかし悩んだのだろうなと思ったりしました。
これからもイーサンの活躍を応援しましょうー
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