かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『幻影師アイゼンハイム』 The Illusionist
2008年 06月 04日 |
格調高さと妖しさが入り混じった雰囲気が魅力。

ハプスブルク帝国末期、19世紀末ウィーン。ある日、人気のイリュージョニストのアイゼンハイムは、ステージで、幼なじみのソフィと再会する。



マジシャンではなくて、イリュージョニストなのだ。幻影師という呼び方は原作小説の訳者柴田元幸氏がつけたのだろうか。小説の中に「幻影師」という言葉が登場するのは何だか幻想的な響きがあって魅惑的だと思う。でも、映像表現の"映画"でこの名を用いるのはむしろ直接的過ぎて、幻想性が損なわれちゃうから情緒がないような。加えて、観客に余計な先入観を与えかねないなぁと、観終わった後に思ったのだった。ここは、イリュージョニストか奇術師でいってほしかったような。

でも、エドワード・ノートン扮するアイゼンハイムは幻影師と呼ぶのにふさわしいちょっとあやしい正体不明の謎めいた男であった。同じ19世紀末のヨーロッパが舞台だったマジシャンものの『プレステージ』は2人の熱い対決が見どころだったので、彼らの人間らしい嫉妬や焦燥感に感情移入してスリルを味わったのだけど、こちらでは舞台裏が披露されることはなくて、主人公アイゼンハイムの手の内や思いが見えず、彼の舞台のイリュージョンを観に来た客と変わらないような感覚でこの物語全体を眺め、謎めき加減とその空気感を楽しんだのだった。ハプスブルク帝国の首都ウィーン、格調高さが感じられながらも何だか幻想的という雰囲気がとてもいい。

ノートンは相変わらずうまいのだけど、ふと、『神に選ばれし無敵の男』のティム・ロスくらいの凄みを見せてくれてもよかったのになって思ったりもした。まぁ、こちらは怪しいオカルト系の役どころではないということか。それよりも、ソフィ役の女優が奪い取りたいほどに魅力的な公爵令嬢という感じには見えなかったのが残念。ソフィにそれほどの魅力を感じられなかったので、再会後のロマンスにはあまり引き込まれるものはなかったのだけど、少年時代の思い出のシークエンスはよかったな。ジアマッティもよいのだけど、自分としてはこの人は現代劇に馴染んでいるように思えてしまう。そんなわけで、最もハマり役に感じられ、その存在感に見入ってしまったのは皇太子レオポルドに扮したルーファス・シーウェル。軍服姿が素晴らしい。その気迫の表情や立ち姿、一挙一動が絵になっていて、コスプレ時代ものの魅力を彼一人で充分発揮してくれた感じ。

謎めいた不思議感とロマンチックな香りが混じりつつも、私にとっての本作楽しみどころは石畳の街と帝国の軍服に象徴された歴史ものならではの格調高い重厚感なのだった。そんな風に、もはやただの歴史ドラマを見るように眺めていた私だったので、最後の最後がこのような着地になっているとは全く想像しなかったの。謎を解こうなんて視点は皆無で、全てが謎めいたままに終わってしまうのかとさえ思っていたので、あらビックリ。人によっては途中で読めるネタだったのかもしれないけれど、私はすっかりだまされていたというか、トリックがあるとさえ勘ぐらなかったおまぬけさん。

だって、ルーファスの存在感には魅入りつつも、物語の中では彼を100%の悪者視していたもの。眼に見える事実の断片と思いこみはいかに真実に遠いものかってことは『つぐない』にも描かれていたけれど。そんなことで人間の運命が左右されてしまうなんてやるせないよね。最後のやられた感は、アイゼンハイムの企て成功を祝福する意味合いなのではなく、むしろ罠にハマった皇太子と警部の立場に同情しつつの不条理さゆえの衝撃。それでいてやっぱり、誰の肩を持つでもなく、外側から眺める観客として、ユージュアル・サスペクツを観た時のように、ストレートなやられた感を痛快に感じるのであった。なんだかんだいって満喫。
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by CaeRu_noix | 2008-06-04 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(11) | Comments(6)
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Commented by margot2005 at 2008-06-11 20:52
こちらにもお邪魔を....
久々のエドワード・ノートン良かったです。
ルーファスは時代物似合い過ぎだし...
時代ものゆえ、ロウソクのほの暗い明かりや、ウイーンを想定した街角の映像が美しく、今年度ベストに入れたい作品となりましたわ。
Commented by 真紅 at 2008-06-12 12:52 x
かえるさん、こんにちは。
この映画、もう公開されないんじゃ?と思っていたら、変わった邦題がつきましたね。
(原作に合わせたみたいですけど)
私も、残念ポイントはジェシカ・ビールでした。あんまり魅力的に見えなかったですよね。
ルーファスさんは何故か時代もののコスプレがお似合いですね。
そしていつも悪役なイメージ(笑)。
『プレステージ』も大好きでしたが、こちらも大満足、堪能いたしました!
ではでは、また来ます~。
Commented by CaeRu_noix at 2008-06-13 23:02
margot さん♪
エドワード・ノートンはやっぱり上手いですよねー。お似合いの役どころでした。
ルーファスは本当にヒゲ姿に軍服が似合っていて、こちらも見事なハマり役でした。
帝政下の軍服ってとても好きなんですが、こんなにそれがお似合いの俳優が着てくれると嬉しくなります。
そして、この時代の物語はやっぱり雰囲気がステキですよねー。
プラハロケな石畳だけでわくわく。馬の蹄音の響きにウットリで、最後の謎解きがなくたって満足してました
おお、ベスト入りですかぁ!
Commented by CaeRu_noix at 2008-06-13 23:13
真紅さん♪
ようやく公開されてよかったですねー。
『プレステージ』も一時期変な邦題がつきそうだったんですよね。
映画タイトルとしてはこの邦題はチョット・・・ですよね。
原作のミルハウザーな文学世界なら、その「幻影師」という日本語訳は味わいがあるのでしょうけれど。
この原作のミルハウザーの短編集も図書館で予約しちゃいました。
映画は原作にはあまり忠実ではなく、かなり脚色しているらしいですが。
ジェシカ・ビールはホントにいただけませんでしたよね。
当初はこの役はリヴ・タイラーが予定されていたという話でしたが、リヴっちだったらロマンスにももっと入り込めたかもーと思うと残念ですぅ。
『プレステージ』はもっと心臓ドキドキな面白さがあったのですが、こちらの雰囲気もまたよかったですよねー。
Commented by SGA屋伍一 at 2008-06-16 20:00 x
かえるさん、おばんです

『幻影師』という呼称、あんまし深く考えてませんでしたけど、訳者は単なる奇術師というだけでなく、「幻影=幽霊を呼び出すもの」みたいな意味も持たせたかったんでしょうかね
 
このお話、実際にあった皇太子のスキャンダル「マイヤーリンク事件」というのがモチーフになってるみたいです。向こうではメジャーな事件のようで、他にもこれをネタにしたフィクションが幾つかあるそうです
で、中には皇太子が「悲劇の皇子さま」のように描かれてるものもあって、本当にちょいと見方を変えただけで物事はいかようにも見えるんだなあ、と思いました
Commented by CaeRu_noix at 2008-06-17 00:54
SGA屋伍一 さん♪
ばんばん。
幻影って、そもそも何でしょう??
わたし的にはその言葉にユーレイなイメージはなかったんですが。
でも、幻影師という呼び方はオカルト寄りな雰囲気がありますよね。
手品じゃなくて、魔術を扱いそうな感じ。
イリュージョンって、もともとはもうちょっと格調高い言葉だった気もするし。

おお、「マイヤーリンク事件」というのですか。
モチーフといえるのかどうかわかりませんが、とにかく皇太子のスキャンダルめいた謎の死亡事件が歴史的事実にあるそうで、そのことでこの映画のそのエピソードもより面白みを帯びるということらしいですね。
日本史選択なもので、初めて聞きました。
ハンガリーに行った頃にエリザベートの本ならば読んだのだけど。
一つの事実も見る角度によってまるで違うものになるし、脚色をしたら、それこそ、多種多様なものが生み出されるのでしょうね。
だから、何度でも同じネタを翻案した作品が生まれているわけだし。
物語の世界はおもしろいですよねー。
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