かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『休暇』
2008年 07月 05日 |
こうやってわが国の死刑は執行されるんだー。

地方の拘置所で働く刑務官の平井は結婚を控えており、1週間の特別休暇をもらえる死刑執行補佐の役を願い出る。



死刑執行の場面を映画で目にしたことは何度もあるのだけど、日本ものに関しては初めてのことだったように思う。『13階段』という作品も観てはいなかったし。だから、死刑制度の是非についてを考えさせられることも多い昨今、わが国では果たしてどのようにその刑が執行されているのかを知ることは意義深いものだ。そして、自分は何も知らなかったのだということに改めて気づかされる。愕然。

死刑執行方法/死刑廃止と死刑存置の考察

死刑を題材にした作品で忘れがたいものは、クシシュトフ・キェシロフスキの『殺人に関する短いフィルム』。ポーランドで死刑が廃止になったのは、キェシロフスキが没した後だったのだなぁ。『サルバドールの朝』を観た時は、ガローテを使ったスペインの残酷な処刑方法に恐怖した。その瞬間は、ギロチンや電気椅子やロープでの絞首の方がましだって思った気がする。でもね、首吊らせて、下に落とすという方法は果たしてましなのか・・・。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラストショットの衝撃は忘れられないもの。虚構の物語での映像体験でさえ、こんなにも嫌悪感でいっぱいになるのに。自らの体で支え役を担った平井のショックはどれほどのものかは計り知れないよね。

『サルバドール~』でも、主人公と交流をする看守の存在が物語をより味わい深いものにしてくれていた。刑務所、拘置所を舞台にした映画は多いけれど、主人公は囚人側というものがほとんどで、ハル・ベリーが主演女優賞をとった『チョコレート』は、看守の仕事する親子側の方が主人公だったかな。それらの物語がドラマチックでウェットだったのに比べると、この『休暇』の主人公の平井たち刑務官の日常の物語は静かで地味なものなのだ。地味だけれど、なんてデリケートで重い仕事なのだろう。そんな仕事に携わる刑務官の物語が主軸になっていたのが興味深くってとてもよかったな。欧米の物語の主人公とは違って、感情を露わにすることもないからこそ、実直な平井の苦悩に私たちは心寄り添わずにいられないのだ。小林薫は素晴らしい。

囚人が主役のドラマなら、意地悪な看守というものが登場しがちだけど、ここにいるのは毎日の仕事に誠実に勤しむ刑務官たち。彼らを悪く描けば、制度に対する立場と取られかねないということもあるのかもしれず、どれほどに真実味があるのかはわからないけれど、誠実に職務と向き合う刑務官たちの姿がこのドラマの肝であった。職務的には居心地のいい職場ではないかもしれないけれど、自分の職場の上司などよりもよほどに信頼のおける気がしたりして。三島が「人の命を何だと思っているんだ」と憤った場面には涙。TVニュースの犯罪報道を見て、気軽に「死刑だ、死刑」なんて呟く人が決して特殊でもないらしい今の日本だから、直に死刑囚の最期と向き合う刑務官たちのそんな姿勢に胸が熱くなる。大杉漣もいい俳優だ。

衝撃的だったのは、支え役という役の存在。そして、死刑執行が本人には事前に知らされないということ。早めに知らせて、暴れられたり、自殺でもされたら困るということらしいけど・・・。本人にとっても知らされない方がましなのだろうか?よくわからない。心の準備なんてしようもないかもしれないけれど、あまりにも唐突しすぎやしないかな。サルバドールだって、最期に家族と面会することは許されていたのにね。『チョコレート』のように、死刑執行前夜の最後の晩餐なんてものももちろんないんだ・・・。(以前は前日通達だったらしいけれど、1975年に死刑囚がその当日自殺してしまったことがあってからは、執行当日の言い渡しが慣例化したとのこと。)それでいて、直前には教誨師が説教を行うなんて、サイゴのサイゴまで形式ばかりが重んじられているんだなって感じられてしまった・・・。信仰心に関係なく、死ねばお経をあげられるのだから、死ぬ直前に説教を聞くことも別に奇妙なことではないかもしれないけど、日本ではやっぱり空々しさを感じてしまう。神は許し給うのか。

にしじーは死刑判決が下されるような凶悪犯罪者には見えないタイプだと思うんだけどね。だから、リアリティを感じないのではなくて、それゆえの不穏な緊迫感をうむの。この囚人の風貌が、アサハラショウコウ風だったり、ミヤザキツトム風だったりしたら、思いは違うものになったのだろうか。そうかもしれない。わからない。でも、やっぱりとにかく、その場面はあまりにも悲痛だよ・・・。

溜息ばかりが漏れてしまうのだけど、平井が新しい人生を踏み出したことは祝福したいな。結婚をする平井が支え役を免除されて当然というのももっともだと思うけど、新しい幸せが先に見えるからこそ、金田真一の死に立ち合い、それを受けとめようという選択をする実直な平井の決意もわかる。誰もが嫌がるけれど、誰かがやらなければいけない仕事なら、その人と交流もあった自分が請け負おうということ。新しい家族のために休暇も必要だし。他でもない彼ならば、血の繋がっていない繊細な男の子のいい父親にもなれるのじゃないかなと思える。

門井肇監督は73年生まれ。プロデューサーも脚本家も70年代前半生まれ。そんな若手のスタッフたちがこういう題材に取り組むというのが素晴しいじゃない。30代の凶悪犯罪というのも多いからこそ、がんばってほしいところ。

そういえば、朝日新聞コラムで「死に神」と表現されたことに法相が猛抗議をしたというニュースがあったけれど、自分はその詳細を確かめようともしないでそのことを受けとめていました。この映画を観たおかげで、その件についての考察もきちんとすることができました。何事もニュース見出しの三行だけで把握したつもりになっちゃーダメですね。

朝日新聞「素粒子」欄による「死に神」表現に、鳩山法相が抗議/Because It's There
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by CaeRu_noix | 2008-07-05 01:35 | CINEMAレヴュー | Trackback(5) | Comments(6)
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Commented by “どん”ちゃん at 2008-07-05 22:58 x

今の社会で話題になっている事に関連していただけに考えさせられた映画でした。監督・俳優ともGoodでしたね♪決して話題の映画ではなかった(と思う。)ですが、非常に満足のいく作品でした♪
Commented by CaeRu_noix at 2008-07-06 11:31
“どん”ちゃん ♪
考えさせられましたよねー。
こういう言い方は軽すぎてアレかもしれませんが、とてもタイムリーでしたよね。
本作の公開中の6/17にミヤザキたち3名の死刑執行がおこなわれたんですもんね。
原作は20年近く前のものなのに、今映画化されて、今観たからこその見ごたえがあったように思います。
Commented by シリキ at 2008-07-06 20:39 x
そんな映画があったんですね。知らなかった。
リンク先もかなり細かく生々しく想像できますね...
ちょっと前に森達也の『死刑』を読んでからすごく死刑制度について考えるようになったので観る機会がほしかったなあ。
Commented by CaeRu_noix at 2008-07-06 23:36
シリキさん♪
これって、確かにあんまり宣伝されていないですよねー。
低予算映画なんですよね。でも、俳優的には豪華。
私も結構直前になってから、存在に気づいたって感じかも。
最近の朝日新聞にこの監督の取材記事なんかもありましたけどね。
7/25までか、有楽町スバル座で上映中ですので、ご都合つきましたら、ご覧くださいー。
私も森氏の本をますます読みたくなったのでした。
Commented by 狗山椀太郎 at 2008-07-08 23:20 x
こんばんは、コメント&TBありがとうございました。
永山則夫や永田洋子など、死刑を宣告されてから絵や文章での表現活動に目覚める人も実際にいるみたいですね。そういう死刑囚のキャラクターとしての西島さんはうってつけだったと思います。今まではあの抑揚のない口調が個人的にちょっと鼻につく部分もあったのですが、今回は素晴らしい演技でした。

凶悪犯罪に対してすぐ「死刑だ、死刑だ!」と唱える論調も、朝日コラムの「死に神」という揶揄も、本作に出てきた現場の刑務官たちのことを想定しない主張である限りはどちらも稚拙なんじゃないかと思うんですよ。まあ、私も人のことをとやかくいえる立場ではないですが、少しでも自分の視野を広げる意味でこの映画の描き方は貴重なものでした。
Commented by CaeRu_noix at 2008-07-10 02:45
狗山椀太郎 さん♪
死刑宣告されてから描き始めたのですか。なるほど、なんとなく気持ちはわかります。生き延びて出所できる可能性があれば、読書等インプットの方に比重を置くけど、死刑ならただ無心にアウトプット活動がしたくなるかもしれません。
絵をたしなむ死刑囚というのはにしじにハマり役でしたね。私個人的にはどうしても彼の風貌が無慈悲な殺人を犯す人間には見えないんですが、演技的には素晴らしいものだったと思います。抑揚のない口調というのもこの状況ではぴったり。

TVを見ながら普通の人々が気軽く、「死刑」と言うのはドキリとします。「極刑を!」っていうのもね。
「死に神」というのは、私はあくまでも、異例の数の執行をした法相のハンコ押しのスピードに対する揶揄ととらえたのですが、これって、刑務官たちに対する軽口にもなっちゃうんですかね?確かに、刑務官もその立場、職務に誇りをもっていたら、朝日コラムの表現を不愉快だと思うかもしれませんね。自分の会社の社長や上司の悪口をきいたとしても、自分のことのように腹が立たない私はそのことに気づきませんでした・・
とにかく、そんなこともあり、刑務官の立場から描かれた本作は貴重なものでした。
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