かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『告発のとき』 In the Valley of Elah
2008年 07月 24日 |
親より先に死なせてはいけない。

2004年11月、元軍人警官であるハンクの元に、イラク帰還兵の息子マイクが姿を消したと連絡が入る。



この物語は実話がベースになっているという。脚本の完成までに1年半を要したそうだけど、現在進行形の問題ともいえるイラク帰還兵を題材にするとはさすがの社会派ポール・ハギス。新聞の片隅に時々、イラク帰還兵の自殺が多発なんていう記事を見つけるたびに、ため息がこぼれたものだけど。身体は無事に帰還できても、それで終わったよかったねで済むとは限らず、戦闘地での過酷な体験は、彼らの心に深い傷を残すのだろう。そんな切実なテーマが、一つの事件を通じてあぶり出されるのだ。

ハギスは名脚本家なのはもちろんのこと、画づくりがまた素晴らしいじゃない。と思ったら、撮影は『ノーカントリー』のロジャー・ディーキンスなのだね。一見、よくあるサスペンスのように謎を解くべく物語は展開していくのだけど、そこらのエンタメ寄りなミステリーとは一線を画す落ち着いた上質感が漂うの。そう感じられるのは、一つ一つのショットの見事さと、真摯なテーマと、実力俳優たちの重厚な存在感によるところだろう。

こういったストーリー設定のもの、軍が絡むミステリーというものを、以前はわりとよく、レンタルビデオで観ていたかもしれない。その時はそれらを、100%サスペンス映画として鑑賞した気がするのだけど、今思うと、それだけじゃないテーマがそれぞれに込められていたのかもしれないね。本作もストーリー運びの主軸となるのは、息子の死亡事件の真相を追うという謎解きで、息子のマイクには一体何が起こったのだろうかと、それだけでも充分に面白く見ることができる。軍部が何かを隠ぺいしようとする動きが見えるあたりは実に興味深くて。

でも、結局のところ、真犯人は誰か、その夜何が起こったのか、というのは本質的な焦点ではなかったのだ。加害者を責めてもどうにもならない。何かが少し違っていたら、その加害者は被害者だったのかもしれないのだ。彼らはそれほどに精神のバランスを崩しており、イラク駐留体験は人をそのような精神状態に追い込むのだということ。警察署で、犬をバスタブで溺死させた夫のことで助けを求めていた女性の末路もとても悲しいものだった。正義の名のもとに任務を全うした人々が殺人者になり下がってしまう状況はおかしいよね・・・。

元軍人のハンクは、兵士の戦地での危険ならば、ある程度の覚悟はしていたのかもしれないけれど、もはや正当性の感じられない大義名分のために、アメリカの息子たちがいたずらに心身を病んでしまうことには大いなる疑問を感じたことだろう。理不尽な理由で親が子を失ってしまうことの無念さこそが、この物語の肝。傷ついて命を奪われた息子を思う親心が胸を締め付ける。何を守るために?もっと大切なもの、守るべきものがあるのだもの。

ハンクが女刑事エミリーの息子デヴィッドに「エラの谷」のお話をする象徴的なシーンもよかったな。こんなに深い意味を持つタイトルなのに、例によって、その味わいを無視した勝手な邦題がついちゃっているのが悲しい限り。デヴィッドの、どうして神様は、少年のダビデを戦いにやったのかという素朴な疑問がまた名台詞になっていて、イラクのことと重ね合わせて考えてしまうのだ。うん、巨人を倒すために、息子たちを戦いにやることなんてないよね。そして、逆さの星条旗を揚げるというハッキリとした意思表示に少しだけ救いを見出すの。
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by CaeRu_noix | 2008-07-24 23:04 | CINEMAレヴュー | Trackback(2) | Comments(0)
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