かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『天安門、恋人たち』 Summer Palace /頤和園
2008年 08月 20日 |
失うことは遺ること。
流れる時代の中でかかえてきた痛みがキューン。

1987年、中国東北地方から北京の大学に入学したユー・ホンは、チョウ・ウェイと出会う。学生たちの間では自由と民主化を求める激しい嵐が吹き荒れていて、やがて 6月に天安門事件が起きる。



中国政府の許可なしにカンヌ国際映画祭のコンペに出品された本作には、中国国内での上映禁止と監督の5年間の表現活動禁止という処分が下されたという。中国国内でいまだタブー視されている天安門事件を描いていることと過激な性描写がその理由だと本作鑑賞前には思っていたのだけど、実際はそれは問題視するような描かれ方ではなかった。結局のところ、自国の許可を受けずに世界的な映画祭での上映したことそのものと、それも、どんな些細な取り上げ方であれ、現代中国の政治的な事件を描いたことを、罰して戒めたいということなのかな。

そんなわけで、そういった問題作という意味合いにおいては、想像したものとは違っていた。天安門事件を描いた物語だという予備知識がなかったら、それが描かれていることにすら気づかなかったかもしれないと思うほどに。主人公の彼らにとって、天安門事件は通過点の一つに過ぎない。それでいて、ユー・ホンとチョウ・ウェイが出会ったのがそんな時代でなかったならば、二人はもっと長く穏やかに愛し合う日を迎えることができたのかもしれない、とも思わずにはいられないのだった。そんな事件に結びついたこの時代の熱気は、ただの背景などではなくて、熱情とともにフィルムに焼きつけるべきものだって感じた。

第6世代のロウ・イエに注目したのが遅かったことを後悔。『パープル・バタフライ』の作風がとても好みだったので、今度はスクリーン体験をしなくちゃと思っていたのだった。そして、バッチリとハマってしまった。第六世代といえばジャ・ジャンクーの名前をまず思い出すのだけど、クールなジャ・ジャンクー作品よりも、もっと物語の主人公に心寄り添ってしまう感じ。同じように青春の傷みをリアルに切り取っているのだけど、もっと温度と湿度の高さを感じるの。ロウ・イエ監督自身が、その時代に北京の学生として事件を体験しているから、血の通った熱情が再現されたのだろうか。

"天安門、恋人たち"という邦題は、芸がなさ過ぎると思うのだけど、『恋人たちの失われた革命』が連想されることはポイント?そして、そのつながりか、『ドリーマーズ』のことも思い出す。少し背伸びをして悪ぶったりもして、奔放に、恋愛と性の戯れに興じる青春期の若者の姿がかぶるの。それとスリーショットのせいかな。こちらの主人公ユー・ホンも、気まぐれでつかみどころないところもあるんだけど、ドリーマーズの兄妹ほどにヘンでもなく、その不安定さには引き込まれてしまった。たぶん一般的には、共感できない女って感じなんだろうけど。だって、青春期の閉塞感や寂寥感、それをごまかすかのように突っ走ってしまう感じが、素晴らしくナチュラルにリアルに描かれていたんだもの。

『ラスト、コーション』を観た時、同じような題材のものなら、私は『パープル・バタフライ』がよかったなって思ったのだけど、大胆なセックスシーンに挑戦する若き中国女優という点でまたしても思い出し、あのタン・ウェイよりもこちらのユー・ホン役の新鋭ハオ・レイに心揺さぶられた私。一般的には、ドラマや主人公の心理を的確に描写するアン・リーの作品の方が多くの人に支持されるのだろうけど、私の感性には、ロウ・イエのタッチがピッタリくるんだな。BBMや色・戒みたいに、数年間や十数年間に渡っての関係性を描いたドラマは、自分にはピンとこないものが多いのかもしれないと、最近分析したばかりなのに、この10年の物語にはのめり込んで見入ってしまった。(BBM支持者はあの作品のこういう感傷に共鳴したのだろうか。)

国は違えど、時代的には、『冷静と情熱のあいだ』のことも思い出した。キャンパスで出会った二人の物語が、10年かけて東京とイタリアの都市で展開したように、こちらも大学を去った二人のその後が、中国の各地やベルリンを舞台に映し出され、やがて再会をする。青春期に出会った恋人を心の奥底ではずっと忘れることができない二人の足掛け10年のドラマということで、同じような感傷をもたらした。といっても、こちらはあんなには甘くはなくて、ヒリヒリとした痛みの方が強いのだけど。その心をえぐるような痛みが残るからこそやられた。

みずみずしい青春があって、その時にはその大切さを実感してはいなかったのだけど、そのきらめく日々は過去のものとなり、全ては取り返しのつかないものとなってしまった時に、心を喪失感が覆っていく。いたずらに年月が過ぎゆくけれど、思い出を過去のものとして愛でる段階には到達していなくて、心にポッカリと穴があいたような状態でも毎日をやり過ごさなくちゃならないやるせなさ。じわりじわりと喪失感に身動きが取れなくなってしまう感触がたまらないの。社会の変貌の中で、自分も大人になっていかざるをえない。何もかもやり直すことは可能だという人もいるけれど、健全な前向きさだけで解決できるものばかりじゃなく、傷はズキズキと疼くのだよね。傷が消えたら、愛も消えるという彼女の台詞が、逆説的に心に残る。

リー・ティの姿も忘れられないな・・・。
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by CaeRu_noix | 2008-08-20 12:19 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(0)
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