かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『その土曜日、7時58分』 Before the Devil Knows You're Dead
2008年 11月 05日 |
これが巨匠の映画。悲劇性を払拭するクールさがオミゴト。

NY郊外の小さな宝石店に強盗が現れ、店員の女性と2人組の犯人のひとりが死亡。この犯罪計画を3日前に決めたのはアンディ、ハンクの兄弟だった。



シドニー・ルメットのことは私には語れない。それでも、語りたくなってしまうほどに名匠は健在だったのだ。監督の齢が80歳を過ぎているなんて信じがたい。なんてシャープに心に切り込んでくれるんだろう。救いのない悲劇的なドラマが描かれているのだけど、作品の切れ味とその巧みな面白さに、気分は沈むことなくむしろ高揚し、確かな手ごたえを感じるのだった。

これは面白いから、単館公開じゃもったいないとも思ったんだけど、青少年に見せることなんて度外視している、R-18の大人映画ゆえの描写こそが本作の魅力。でっぷり中年体型のPSHのベッドシーンをファースシークエンスにもってくるなんてルメットさんはさすがだ。あまり見たくない画ズラなんだけど、それが夫婦のものだとは思いもよらなかった痛々しさが感じられる、これから始まる物語を暗示するインパクトのある幕開けなの。素晴らしい。

サスペンスというジャンルの映画というとプロットの面白さ、謎解きに注力しがちなものだけど、本作においては、映像にもすこぶる心惹かれてしまった。一つ一つのショットのキメ方がとても好みで気持ちよく見入ってしまったな。これが非作家のスタジオメジャー映画だったら、もっとカットがめまぐるしくなっていると思うんだけど、惚れ惚れする時間があるほどのどっしりとした的確さがいいのだよね。画的には美しく、部屋にポツンと佇む主人公を捉えるカメラはその心のうちの空虚さを伝えるかのように視覚に訴えかける。

宝石強盗事件の経緯に興味を引かれたたまま、やがて浮かび上がる兄弟、父子の確執にそのまま心釘づけになるのだった。ここに起こる悲劇は不幸な偶然の作用も手伝ってのフィクションならではの物語なんだけど、嫉妬心と焦燥感、そこに沸き起こる感情には傍観できないリアリティがあって、そんなふうに堕ちて行ってしまう人間のサガに胸が痛くなる。シブめな実力俳優たちの確かな演技によって、緊張感が途切れないままに、その出来事を息を飲むのだった。

人は相も変わらずにお金のためには何でもやってしまうのだ。だけど、お金がほしい理由が愛する人の希望に答えるためだったりするのだよね。そして、哀しきエディプス・コンプレックス。呪縛から逃れられない男たち。女たちはしたたかだったな。義弟と関係しちゃいかんでしょ。やるせないドラマだったけど、映画を観たっていう満足感。
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by CaeRu_noix | 2008-11-05 10:20 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(5)
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Commented by ぺろんぱ at 2008-11-06 12:26 x
またしてもお昼にお邪魔です、こんにちは。

本当に、やるせない映画でしたね。
あぼ冒頭のシーンには私も(そういう幕開けを予想していなかっただけに)唖然としつつ何処か厭な匂いを放っていたように感じたたのですが、かえるさんの仰る通り、あれが夫婦のものであったことを考えると確かに哀しいシーンであったと言えますね。
そしてその後の展開を鑑みるに、少しでもアンディが再生を信じることのできたあの冒頭シーンが実は彼にとって最も幸せな瞬間であったことを思い知らされ、非常に心が痛みます。

お金、そして(事の展開を決定づけたという点に於いて)銃って怖いなぁと改めて思った本作でした。ゆっくりゆったり流れるようにすすむ映画もいいけれど、こんなふうにガツンとくる作品も、やはり観応えがあっていいですね。

あと、かえるさんのレヴューを見てフィリップがPh…であると気付きました!Fと記してしまってた私、慌てて拙ブログに行って修正を入れた今です(恥)・・・バカが露呈してしまったか!? (冷や汗) ^_^; こんなぺろんぱですが今後ともよろしくです。

Commented by ぺろんぱ at 2008-11-06 12:29 x
すみません、何度も。
「あぼ冒頭の」は「あの冒頭の」のミスです。お分かりかと思いつつ念の為、、、申し訳ないです。
Commented by kusukusu at 2008-11-06 13:32 x
こんにちは。厚みがある作品でした。脚本はなんか、タランティーノの映画みたいなんだけど、タランティーノみたいな話でもルメットのような巨匠が撮るとこういう風になるのかと興味深かったです。
ところで、僕はちょっと勘違いして見てて、最初、イーサン・ホークとマリサ・トメイの逢い引きシーンを見た時、てっきりマリサ・トメイがPSHの妻とイーサン・ホークの愛人とを2役で演じているのかと思ってしまいました。つまり、兄弟が同じような感じの女性にひかれて身を滅ぼしていく・・というのを表現するために、ひとりの女優に2役で兄の妻と弟の恋人を演じさせたのかと思って、なかなか斬新だなあと思って感心していたのです。勘違いで2役ではなかったのだけど・・。
Commented by CaeRu_noix at 2008-11-07 00:02
ぺろんぱ さん♪
これでもかーというほどに悲劇が折り重なってきましたよね。
哀しくやるせない。でも、見ごたえ満点の面白さ。
冒頭のシーンはいきなり衝撃的でしたよね。最初からやってくれるなぁ、でも、さすがだなぁ、って感じでした。あの燃え方(笑)は、てっきり相手はゆきずりの女性か、商売女だと思ったんですよ。それが妻だと知って、あらビックリでした。自分を無理に奮い立たせている感じが何やら痛々しかったのでした。床上手(推定)な妻を今宵ばかりは喜ばせようー的な。w
そうですね。振り返ってみれば、あのシーンの高揚は輝ける瞬間だったのかもしれませんね。
そうそう、アメリカ映画では、そういう感想をもつことが多いのですが、銃社会であるがために、決定的な悲劇が避けられないんですよね。護身用の銃が殺人をよぶ・・・。
そうなんです。基本的には心温まる系の映画が好きな私ですが、こういう切れ味のものに出会うと嬉しくなりますよね。
フィリップは綴れないけど、頭文字はPー
Commented by CaeRu_noix at 2008-11-07 00:13
kusukusu さん♪
シャープなのに重厚感でいっぱいでしたよね。
なるほど、このプロット、時間軸を入れかえた構成の脚本は、タランティーノ映画チックかもしれませんね。これにもっとノリノリの音楽をつけて、キャラクターを軽めにして、編集に遊びをきかせたら、タラちゃん映画が出来上がりそうー。(そのためには間抜けなわき役ちゃんたちがもっと必要だけど。) そんな巨匠らしからぬイマドキ風脚本で、巨匠ならではの的確な仕事をしてくれるのがサスガです。
マリサ・トメイ二役とは思わなかったけど、逆に、顔の判別ができない私は(笑)、兄弟のベッドのお相手が同一人物だとは最初思わなかったのでした・・・。
だから、たぶん私だけ、彼女が弟とも関係をもっていたという告白に、兄と同じくらいドッキリしたのでした。わはは。勘違いして、映画はより面白くなることもあるーってことで。
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