かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ブラインドネス』
2008年 12月 04日 |
光も闇も。
見ること見えることについてを恐怖体験の中で思う。

とある都会で、感染による失明者が続出。
ジョゼ・サラマーゴの小説「白の闇」を映画化。



おもしろかったですよ。怖かったですよ。私は、モンスターだの幽霊だの、あちら側の生き物だのが登場するパニック映画には冷めちゃう傾向にあるので、得体の知れない生物は出てはこず、人間たちの姿だけを通して、人間と人間社会についてを描いた本作はとても興味深かったなって。ゾゾゾっとしながら、考察して満喫。メイレレス監督作品前作と比較をしたなら、『シティ・オブ・ゴッド』や『ナイロビの蜂』には及ばないけれど、こういうジャンルの映画、極限状況下の人間を描いたドラマとしては、手ごたえありでした。全体的には、主人公がやけに勇敢に戦う『ミスト』あたりよりもしっくり来たかも。

映画というものが人生になくてはならないものとなっている自分は、"見える"ことについて、"見る"という行為について、しばしば思いを巡らすことがあり、見ることができることには、どんな歓びがあるかということを、常々実感しているわけで。見えなくなるということには、聞こえなくなることよりも、話せなくなることよりも、歩けなくなることよりも、そこはかとなく大きな恐怖を感じると思う。考える葦人間は、まず認識をする、知覚して知ることから多くが始まるから、見えなくなることでいかに世界は閉ざされることになるか。原始的なものに向かうしかないのかな。食いつないで生き延びることが何よりも重要課題となるのだね。そのために女たちが生贄になることさえも受け入れる。

『28日後..』もそうだったし、ゾンビが登場するまでもなく、戦禍でパニック状態になった場所なんかでも、欲望のはけ口として、女性が犠牲になるという展開は避けて通れないものらしく、その恐ろしさには呆然とするしかない。皮肉なことに、目が見えないことは、性行為をすることにはあまり支障を来さないのだよなぁ。唯一の見える者、ジュリアン・ムーアの立場で、映画の観客は自分なら、どう行動することができるか、この無秩序なコミュニティにおいて、皆のために何ができるかについて、息をのみながら考える。見えることの優位性を実感しつつも、彼女はスタローンではないのだし、たった一人だけで全てを担うのはあまりにも荷が重い。見えないことは苦しいけれど、このような状況でたった一人だけ見えていることもこれほどに辛いなんて。

それにしても結局、ゾンビものや『ミスト』や『ハプニング』同様に、極限下では、限られた人数の、たまたま仲間となり得た一握りの人たちと助け合うのみなのが自然な運びなのかな。もちろんたった一人では、多くの人に手を差し伸べることは不可能。だけど、余力があるならば、家族以外も救いたい、袖すり合った信用できる人ならば仲間とみなす、ということになるんだろうか。街をズンズン歩いて進んでいく中で、列から逸れてしまった人を気にも留めないところが印象的だったり。ある時には、たまたま同じ場所に居合わせたというだけで、命を助けあったりもするのに、次の瞬間には平然と見殺しにされるというのも当然の成り行きなのかな。ガエルの演じたわかりやすい悪の登場よりも、さりげない見捨てられ方にゾッとした私。極限状況はやっぱり恐ろしい。人が他者を顧みる余裕のある秩序ある平和な社会はとりあえず大事ってこと。

ジュリアン・ムーアの出演作の数々にはよくわからないものもあるけど、このたびは確かな演技力を見せつけてくれた。やや不安だった伊勢谷・木村の存在もなかなかよかったかな。年齢の割に、日本語のしゃべり方が軽いというか、元ヤン風味な感じがしたけど、それがまた面白くもあり。初詣の思い出を語るところは結構好きだったな。その台詞はもともと台本に書かれていたのですかね?欧米人の辞書に初詣ってあるの?(ちなみに脚本家は、出演もしていたカナダ出身俳優のドン・マッケラーですって。この人のフィルモグラフィーには親しみを感じたり。)

ヘレン・ケラーはすごい。セルマは潔い。でも、私はもっと見たい。ちゃんと見たい。目を背けるなんてもったいない。目に焼き付けたい。視覚が全てではないとは思う。それでも、やはり見えることの素晴らしさをかみしめずにはいられないの。
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by CaeRu_noix | 2008-12-04 07:55 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(6)
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Commented by mar_cinema at 2008-12-04 22:35
かえるさん、こんばんは。
個人的には、監督の前2作より、好みの作品でした。
とは言え、女性が犠牲になるシーンは、観ていてきつかったですが、
あれ位の事が無いと、普通の人は、行動できないもんでしょう。
ミラ ジョボビッチとか主演だったら、あっさり行動するんでしょうが、
それだと、根本的に別作品になりますし(笑)

「白の闇」は、アマゾンで注文中ですが、
まだ、入手できてませんが、初詣のシーンは、
伊勢谷氏が台詞とか考えたって、記事とかに載っていたのを読みました。

Commented by CaeRu_noix at 2008-12-04 23:56
mar さん♪
前2作よりもお気に召しましたかー。
世間一般的にはあんまりみたいですけどね。皆さんは主人公公が勇敢に奮闘するパニックものの方が好きなんでしょうかね。
そう、ミラジョボやアンジーじゃないんだから、そんなに機敏にパワフルに行動できませんよね。
奴が慌てて、銃を乱射して、死傷者が多数出てしまうことは避けたいですもの。
唯一見えている彼女が泣き寝入りするんなんて不自然だという感想もあるようですが、それって、ハリウッドの映画の運動神経抜群で判断力が卓越した勇敢なヒーローを見過ぎちゃっているゆえの感覚じゃないのかなぁって・・。

原作も気になります。
見える見えない世界を一目瞭然の映像で描くこともエキサイティングだし、同じものが文章で表現されているというのもまた面白そう。

おお、初詣の件、情報ありがとうございます。
やはり、日本人ならではの発想ですよね。用意された台本じゃなく、台詞も日本人俳優として参加した彼らが自ら考えたというのは素晴らしいことですね。日本人だから実感できる素敵な思い出話のシーンでしたもの。イセヤンは伊達に映画監督とかをやってないですね。初詣に行きたくなりましたもん。12月なのにー
Commented by Minita at 2008-12-05 00:56 x
かえるさん、こんばんは~!
とっても心理的に怖い作品でした。見ていてつらい場面もありましたが、
色々考えさせられ、
鑑賞後、これまでより眼をケアするようになりました(笑)

私としてはジュリアン・ムーアが、少しずつ強くなっていくさまが面白く。
確かに、見える彼女のほうがつらい状況だったりしましたよね。
でも、それを乗り越えつつ、他人に手を差し伸べ、正しい方向に
導いていくのが胸に迫りました。

伊勢谷&木村コンビ。なかなか存在感を発揮していましたね~。
ビジュアルも素敵だし。でも、私としは「初詣」のくだりはちょっと
間が抜けているなあと思いました。
あの日本語会話シーンはどうみてもセレブ夫婦には思えず・・・・。
Commented by CaeRu_noix at 2008-12-06 00:23
Minita さん♪
傍観できない辛いシーンがたくさんありましたよねー。
ホント、目を大切にしなくちゃって感じです。
映画の見過ぎ、パソコンに向かい過ぎ、コンタクト入れっぱで寝ちゃったりとか、酷使しまくってますが・・。

ジュリアンの立場というのも実にしんどいですよね。
あの汚れまくった廊下やトイレを見ただけで、もううんざり・・。
幾度も絶望的な気持になったに違いないけれど、あきらめずに前に進んでくれてよかった。
夫だけじゃなくて、同志になり得た何人かをもまとめて面倒見てくれたのだから、大したものなのかな?

伊勢谷&木村は、いろんな意味で見どころでした。
わはは。初詣のくだりは、初めイセヤンが1人で、火があったけーとか語っていた時は、バカっぽいよなーって思ってたのですがw、最後に木村さんが「初詣、楽しかったね」と言った時には、ジーンときてしまいました。
あれって、セレブ夫婦という設定だったんですか?!
私は、絶対元ヤンに違いないって思ってました。ヤンを卒業するやいなや海外に移ったから、日本語話す時はその当時のまんまなんだなーって感じで。
イセヤンのバカっぽいしゃべりがあってこそ、視力を失った動揺が伝わってきたし?
Commented by Nyaggy at 2008-12-18 13:22 x
かえるさん、こんにちは。
ホント、鑑賞前に想像していたのはちょっと違う感じの作品で、面白かったです。
『シティ・オブ・ゴッド』ほどの衝撃はないですが、やるなぁ、メイレレス監督!という感じで。
主人公がスーパーウーマンじゃないのも、好感度大でしたし。

最後にジュリアンをとりまく小さなグループで街へ出て行った時、一人だけ
列から外れてしまった描写は、私も妙に印象に残っています。
あまりにも自然にそこからいなくなり、ジュリアンも振り返りもしないのが
なんだか怖かったです…。

アンコール・ワット旅行記も、楽しく読ませて頂きました~。
私もいつか行ってみたいです。
Commented by CaeRu_noix at 2008-12-19 22:15
Nyaggy さん♪
パニックパニック大騒動系じゃなくて、より楽しめましたよねー。
私はこれに関しては、そんなに事前にイメージを膨らませていたわけではなかったのですが、みなさんの感想をちらちら見たところによると、コピーや予告が本篇の雰囲気とは違うものだったみたいですね。
監督の作品としては、シティやナイロビの方が断然好きなのだけど、好き嫌いではなく、とにかくこれも楽しめて考えさせられた映画でしたよね。

私としては、外に出てからの動向が結構ショッキングでした。
あれほどに町に人があふれていたのに、彼女はひたすらまっしぐらに施設で出会った数人のみを救うために進んでいきましたもんね。
いくら目が見えているといっても、たった一人でそこらじゅうの猛獣化したような人々にいちいち救いの手を差し伸べてはいられないから、ごく普通の行動なのでしょうと思いつつ、災害時にはこんなふうにするっと見捨てられちゃうのかなーとゾゾっとしたのでした。

旅行記も読んでくださりうれしいですー。
アンコールワットよいですよー。私は中南米に行きたーい。
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