かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『英国王給仕人に乾杯!』
2009年 01月 20日 |
ひなぎく咲き乱れて、舌鼓。

小国チェコの激動の20世紀現代史が小さな給仕人ヤンの人生を通して綴られた年代記。



原作はチェコの国民的作家ボフミル・フラバルの小説「私は英国王に給仕した」

チェコの巨匠イジー・メンツェル監督の12年ぶりの長編映画なんだって。12年も休んでいたなんて本作関連のニュースが届けられるまで全然知らなかった。何しろ私がイジー・メンツェル監督のことを知ったのはほんの何年か前のことだったしね。以前、パピヨンさんにいただいたVIDEOに録画されていた『スイート・スイート・ビレッジ』 がとても気に入ったので、2008年の特集上映にも足を運んで、『スイート~』と『厳重に監視された列車』(66)も観ることができたの。そしたら、年末には新作の公開で、それがもう素晴らしい作品だったから、メンツェルの名前を深く心に刻むこととなったのだ。

偶然にも、2008年はもう一人のチェコ出身の巨匠の映画に出会った年であった。そう、映画祭の上映(PFF)で、ミロス・フォアマンの初期作品を観ることができたの。その際に、フォアマンが政治的圧力があったりしてアメリカに移住したことを知ったのだけど、同じ頃から活躍していたメンツェル監督の方は、ずっとその祖国チェコの映画監督であり続けたということも知り得て、その事実に感嘆したのだった。メンツェル監督もチェコ事件で弾圧のやり玉にあげられ、7年間映画づくりを許されなかったのだけど、その国を見限るということはしなかったなんて。どちらがよいということではなく、ただ彼がそうだったということに心打たれるのだよね。

ずっとチェコで映画を撮り続け、その国の激動の歴史を内側から見つめてきたメンツェル監督だからこそ作ることのできた映画なんだよね。こんなにシニカルな内容なのに、とっても優雅に軽やかに語られるんだもの。その余裕を感じさせる独特の手法に感銘。史実に基づいた出来事を具体的に直接的に物語にするのではなく、比喩的に寓話的にシニカルにコミカルに軽やかに、一国のクロニクルを映像作品として紡いじゃうなんてね。他でもない器の違う巨匠の仕事って感じだよね。

音楽の美しさ、そのテンポがまず素晴らしくて心つかまれる。こういう映画音楽は大好きで、『この素晴らしき世界』と同じ人が担当していると知って納得。クラシカルな上品さがあるんだけど、流れるようなテンポが気持ちいい。その音楽が小男給仕人ヤンのちょこまかした動きやら、リッチな権力者たちとお姉ちゃんたちの戯れにバッチリ調和して、目と耳の両方でその軽快に流麗なリズムに魅せられる。大人のブラックユーモアもあふれているのに、それが負のものであるということを忘れてしまうほどに、エロティックに華やかで夢心地だったり。豪華ホテルのレストランの食事はそりゃあもうおいしそうだし、スラヴ美人の女たちのファッションがまたステキなんだよね。

着飾ったお姉ちゃんやオヤジたちがテーブルに乗ったり、食べ物で戯れちゃうその姿は、まるで『ひなぎく』の世界じゃない。大人のひなぎくだーって、なんかもうそれだけで楽しくなっちゃったし。富めるオヤジたちが金に物をいわせてやりたい放題の贅沢をする姿や、その恩恵にあやかるべくオヤジたちにされるがままの女たちの姿は、立ち止まれば不快でもあるのだけど、それがこの優雅な流れの中で陽気にサラリと描かれているわけで。若かりし頃のヤンの価値観や生き方も後で眺めてみたら反省すべきものだったりもするんだけど、その渦中ではひたすら楽しくほほえましいもので。まぁ、それが、信じ崇めていたものの価値も社会情勢でくるっと変わっちゃうのだけどね。ただただその語り口、この大らかさに魅了されるばかりなのだった。給仕人がサーヴする高級料理のように口当たりよく芳醇な味わいに満足。

その当時はいけすかない奴と思っていたフォアマンとは今も友人で、この映画に対しても賛辞を送ってくれたそうで。そんなお話にも嬉しくなっちゃうね。

英国王なんてほとんど出てきやしないのに、「私は英国王に給仕した」っていうタイトルからして、チェコらしいなぁと思いつつ、ボフミル・フラバルの小説も読んでみたいなって思った。
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by CaeRu_noix | 2009-01-20 08:03 | CINEMAレヴュー | Trackback(5) | Comments(7)
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Tracked from 寄り道カフェ at 2009-02-05 13:38
タイトル : 「英国王 給仕人に乾杯!」
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Commented by Minita at 2009-01-20 12:52 x
かえるさん、こんにちは~!
この映画、サイレント映画チックな入りから引き込まれました!
チェコって激動の歴史をおくってきた国だから、いくらでも暗くシリアスに描けるところを、
かえるさんのおっしゃるとおり、「優雅に軽やかに」語られているところが、素晴らしかったですね♪
監督自身も7年間も映画づくりが許されないという過酷な経験をしているにも関わらず、
諸々乗り越えて、それをユーモアを交えてみせ、味わい深い作品に仕上げているのが、本当に凄い!
日本もこういう映画、作れないかしら・・・・。

あと、とってもビールが飲みたくなる映画でしたね(笑)

Commented by CaeRu_noix at 2009-01-21 00:13
Minita さん♪
サイレント映画のような始まりからセンスを感じさせましたよねー。アイリス・イン♪
チェコ映画って、自分が観たものは一握りに過ぎないのだけど、その悲劇を悲劇として陰鬱に語るものは少なくて、常にユーモアを忘れず、悲哀から可笑しみをうむような柔軟で大らかなものが多いんですよね。
そんな中でも、本作の優雅で軽快な語り口ったら、極上でしたね。
大好きな『スイート・スイート・ビレッジ』の監督なのに、7年も映画作りを規制されていたなんてことをこれまで知らなくて・・・。
そんな苦難にめげることなく、円熟し、こんなに素晴らしい映画を世に送ってくれたことに感嘆するばかりですー。
ハンガリーの『タクシデルミア』も一風変わった年代記でした。
今の日本の映画界からは、こういう映画が生まれそうには思えないけれど、こんな風に日本の現代史を振り返ってくれる映画作家がいたら嬉しいですよねぇ。日本でやったら、TVドラマ風にしかならなそうだけど・・・

料理もおいしそうだったけど、ビールもそれはもう魅力的でしたよね。
ピルスナー大好き。プラハで飲んだビールはおいしかったですー
Commented at 2009-01-24 00:06 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mchouette at 2009-02-05 13:37
お久しぶりです。
相変らず精力的に映画を観られてる!
私はここにきて厳選モード(といっても基準があるわけではないんだけれど) 
この映画、久々の手ごたえ感じた映画だわ。語りも巧みで職人技。
ソ連時代は共産主義圏で抑圧されていた分、感性が内部で熟成されてこんな完成度の高い作品が生れるんだわって思いました。
Commented by CaeRu_noix at 2009-02-07 00:48
シュエットさん♪
お久しぶりでーす。まったくもって精力的です。w
昨年秋に週に一度の別の趣味が満了になりまして、その後は映画ばっかり生活・・・。
何しろ分母の多い私ですので、大きな手ごたえを感じる映画というのも結構よく出会うのですけれど、本作は格別なものでありました。
こういう政治的な史実を題材にして映画を作る場合、もっと直接的にシリアスタッチに描かれるのが一般的かなぁと思うのですが、そんな型にはまらない巨匠のアーティスティックな職人芸に驚嘆でした。
歴史に翻弄され、抑圧されたがゆえに、人々や芸術家たちの思い・力が強く熱いものになって、優れた芸術が生まれたと言われていますよね。
音楽も文学も映画も高水準ですごいなぁって。
Commented by sakurai at 2009-07-12 20:23 x
またまたTBありがとうございました。
1月に上映されていたのですねえ。
日本全国順繰り回って、半年かかってやっと来た・・・という感じでしょうか。
いやーー、監督のこともさっぱり知らんかったのですが、勉強になりました。
チェコにい続けて、ずっと見てきて、そしてそれを紡ぎだす。ちょっとやそっとの決意じゃできないですね。
見事です。
音楽も納得。「この素晴らしき世界」も、印象深い映画でしたものねえ。
いい映画でした。
Commented by CaeRu_noix at 2009-07-13 00:17
sakurai さん♪
またまたありがとうございますー。
厳密にいえば、これは去年の12月下旬公開作品でしたー。
やはりチェコ映画というのは、思いきり単館ものになってしまうようで、数少ないフィルムを順番に全国でまわしたっていう感じですかね。
同じ映画なのに、全国で何百のスクリーンで同時に公開されるものもあれば、こういうのもたくさんあるのが面白いですよねー。
(面白いというか、本当は腹立たしいのですがーw)
そんな状況であれ、配給してくれてありがとう、フランス映画社さーん!ですね。
海外の映画監督には、当局ににらまれちゃって仕事に支障が出という人も少なくはないけれど、それでもみなさん挫けずに、創造を続けてくれているから嬉しくなりますよねー。
芸術家の心意気は素晴らしいー。
音楽も本当にセンスがよくって、大好きです。
多くの映画はオーケストラの重厚な交響曲系ばっかりでウンザリする中、この流れるようなメロディには心地よく酔えましたー。
『この素晴らしき世界』も忘れがたい感動作でしたよねー。
中欧、東欧、スラヴ、よいですー
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