かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『エレジー』 
2009年 02月 04日 |
文学的な深みをそのままに、繊細な感情表現、美しい映像と音楽によって紡がれた芸術品に。

TV出演もする初老の大学教授ケペシュは、キューバ系の学生コンスエラの美しさに惹かれて・・・。



普通なら、60を過ぎた男が30も年下の若い女との愛欲に溺れるドラマを見たいとはあまり思えないのだけど、スペイン出身の女性監督イザベル・コイシェがメガホンを取ったとなれば話は別。主演もスペインのペネロペ・クルスだなんて奇遇で素晴らしい取り合わせだと思ったら、先に出演が決まっていたペネロペがコイシェ監督を推薦したのか、一緒にやりましょうっていう誘いをかけたらしい。脚本には当然、美しい胸をさらけ出す場面が書かれていたのだろうから、主演女優としては無粋な男性監督に演出されることを不安に思ったに違いなく、コイシェ監督に撮ってほしいと望むのは、実に最良の判断だよね。女優を最も美しく撮れるのは男性監督なのだろうか。必ずしもそうとは限らないのかもしれないね。女優ペネロペの存在そのものも含めて、とても美しい映画に仕上がっていたよね。主人公はどちらかといえば、ベン・キングズレー扮する初老の大学教授なのだけど、これまでとは違って男性が主人公の物語でも、コイシェ監督の作り出すものは優雅に繊細で素晴らしいの。初めて二人で過ごした日、彼が外で彼女に「うちで飲まないか」って誘った時に、彼女がしばし答えあぐねているその僅かな時間の戸惑いの描写がとてもセンシティヴですごく気に入っちゃった。

フィリップ・ロスの小説の映画化というと、同じようにロスの小説が映画化された『白いカラス』のことをまず思い出したのだけど、あちらの方はアンソニー・ホプキンス、ニコール・キッドマン,という配役がどうしてもしっくり来なかったりで、いくつもの違和感を覚えて、映画の味わいは物足りないものだったのだよね。後で読んだ原作の「ヒューマン・ステイン」の方はとても面白くて心つかまれたから、ロスの文学性そのものは好みかなって思うのだけど。でも、それに比べて、今作のキャスティングはなんて的確なんでしょう。老いてもなお性生活を自由に謳歌する、精力的なインテリ有名人に適役なベン・キングスレー。文学者ゆえに思慮深く、理性的でもありながら感受性は強かったりで、原作が小説ならではの細やかに心理が揺れ動く様を、彼は巧みに表現してくれた。だから、イメージ的には共感しづらい設定の主人公なのに、「ヒューマン・ステイン」を読んでいる時と同じように、若い女に夢中になってしまう初老の男にすっかり心寄り添ってしまったの。彼に同化して、若きビーナス、コンスエラを眩く見つめてしまったり、いつか訪れる終りを想像して心を痛めたり、希望と落胆を繰り返して葛藤し、その関係性をハラハラと見守ってしまうのだった。サスペンスでもないのに、終始ドキドキしちゃったもの。

老いた男が若き美貌の肢体に欲情するのが発端なのに、単に下品で低俗なものにならないどころか、こんなにも心に沁み入る深みをもらたしてくれるのは、原作にある文学性であり、女性監督コイシェのセンスあふれる洗練された演出によるものだよね。原作のタイトル「ダイング・アニマル」というのは、"「死を背負う獣性」に金縛りになった情念は、身のほどをわきまえぬ"(鈴木弘訳)というイェイツの詩句からとられているそうなのだけど、そんなふうに死が俄かに迫りくることを意識するがゆえに、情欲、性という生に葛藤しながら囚われてしまう人間のサガに、デヴィッドの姿を通して向き合うことなるのが本作の醍醐味。人生の終焉期にさしかかる年老いたインテリ男ならではの達観と覚めた振る舞い、逆に純粋無垢に揺れる恋心と止められない子供じみた行動の入り混じり方に、私の心も釘づけになってしまうの。その下世話なオハナシのようで深遠なテーマ性に大いに感銘。そして、文学的という頭でっかちな側面ばかりでなく、センス抜群のコイシェ監督によって、素直に感性に訴える作品になっているのだよね。ベートーヴェン、バッハからサティまで心洗う上質な音楽がとってもステキなの。原作にはもっと入念に赤裸々な性描写があるらしいけれど、そこに重点をおくことなく、詩と音楽で表現されるもの「エレジー」がタイトルになっていることからわかるように、映画はただただ切なく美しい印象を残すのであった。

『裸のマハ』という映画に出演したこともあるペネロペに、マハのイメージをかぶせるアプローチが面白いなぁと途中で思ったのだけど、まさか終盤に、本当にその構図をコンスエラが実現することになった展開には大いにうなってしまった。哀しいけれど、重層的で、なんて美しく素晴らしい場面なんでしょう。こういうふうな展開だとは知らなかったから、美しい乳房をもつ若き女性が、よりにもよってそんな病気を患ってしまった皮肉にもショックで言葉を失いながら、物語構成としては巧みだと感じてしまったのだった。患うことがなかったら、彼女は再会を試みることはなかったと思うしね。、死に近い位置にいるのは当然、30も年上の自分にきまっていると思っていたデヴィッドのところに、こんな逆転が訪れるなんて溜息。そんな皮肉、物事の多面性に驚かされる。そして、そんな立場に置かれて初めて、自信をもって彼女への愛を心に満たすことができたデヴィッドの姿が切なく心を揺さぶるの。
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by CaeRu_noix | 2009-02-04 11:24 | CINEMAレヴュー | Trackback(9) | Comments(6)
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Commented by 哀生龍 at 2009-02-04 12:58 x
苦手な要素が多いと承知の上で見に行ったのですが、予想に反して哀生龍でもスーッと受け入れられる要素の多い作品でした。
「食わず嫌い」をしなくて良かったです。
そして、哀生龍が持ち合わせていない別の目と感性を持つかえるさんの感想を、実は内心楽しみにしてました。
かえるさんの感想を読み、改めて、作品に含まれる意味や描き出される人間性を味わう事ができました。
Commented by こべに at 2009-02-04 13:00 x
またまた、こんにちわ!かえるさん☆
うぉー!そうか!なるほどーと、うなり声
あげながら読ませていただきました。
かえるさん、すごーい!!

コンスエラが横たわっていたのは『裸のマハ』だったんだー
なんてことにもぜんぜん気付かなかった(あせ)

ペネロペの美しさにただただ見惚れてしまうシーンも多かったけれど
映画もキレイでせつなくって良かったです。
ピアノもステキでしたねー☆





Commented by CaeRu_noix at 2009-02-05 21:02
哀生龍 さん♪
普通だったら、哀生龍さんは観ない系ですよね。w
でも、そう、女性側が主体ではなく、主人公が葛藤する初老男だったのがよかったのかな??
偏見はあっても、映画は自分の目で観てみないことには判断はできませんよね。
受け入れられてよかったですー♪
ややや、ありがとうございます。
本作は私には、非常にしっくりきた映画でありました。
サースガード息子との関係性、クラークソン恋人とのこと、ホッパー友人のこと、書きたいことはたっくさんあったのだけど、そこまでたどり着けませんでしたわ。
コンスエラとの立ち位置の逆転のようなものもあったのと同時に、病気のことで訪ねた際に、息子との関係性にもそんな現象が起こったのが面白かったですよね。
いくつものテーマ性があったので、ポイントも人それぞれで、多様な感じ方ができるんだろうなって思います。
Commented by CaeRu_noix at 2009-02-05 21:03
こべに さん♪
うなってくれて、ありがとうございますー。
思いっきりマハマハしてたじゃないですか。
気づかなかった罰として、今夜こべにさんも裸のマハのポーズを10秒間やってください!
ああいうポーズをしたら、胸はマハマハになるところ、ペネロペちゃんはちゃんと魅力的な胸がたもたれていて、素晴らしいなぁと思いましたわ。
映画の中の台詞で、その女性の極上の美を褒めることって時々ありますけど、映っている女優はそんなにキレイでもなくて、その台詞が浮いちゃうケースの方が多いですよね。
でも、このペネロピは本当に美しかったですよねー。
音楽も映像も、映画全体が美しいものでありましたね。
Commented by シャーロット at 2009-02-09 21:34 x
ばんはー。
むー、どうやらTBは届かない?

作品がとても美しかったですよね。音楽にとろけましたよ♪こういうのが好きなんだよーと叫びたかったしw
それにいつもならこんなハイソな人たちにはあんまり興味がわかなかったりもしますけど、映像は全然嫌味なんてなくて上質さいっぱいで。それにロマンチックでもあったなあ。海のシーン好きでした
ぺネロピはマハマハ;・・・あんなポーズして許されるなんてー、まさにあの胸は芸術品ですな。

それと、父と息子、、、こちらも何気にドキドキしながら見守っていた感じもありました。いくつもの感情の交差があるのに、やはり美しい仕上がりにはうなっちゃいますた。
Commented by CaeRu_noix at 2009-02-11 00:14
シャーロットさん♪
そうっすか、残念。ひょっとして、gooとlivedoorはどこもダメになっちゃったのか・・

イザベル・コイシェの音楽のセンスもこれまた最高で、前作の選曲もすごくよかったけど、今回もクラシックを中心に優雅なものをあつらえてくれましたよね。
ハイソかぁ。そうね、お金持ちで偉い人の豊かで贅沢な暮しには私も別段興味はないけれど、教養があって芸術に造詣が深い人の文化度の高い生活っていうのなら、疑似体験できるのは嬉しいかも。
教授の講義も面白そうだったし、著作も読んでみたいと思えたりしたし。
クラシックを聴きながら、ワインを飲みながら、ベラスケスの絵についての講釈をうけるなんて、そんなハイソはステキかもー。
〇ゲオヤジが主人公の映画なのに、ロマンチックな雰囲気に満ちていましたよねー。
ペネロペはコレリ体位じゃなくて大尉ののマンドリンで裸体をさらけ出した時はバカバカって思ったんですけど、本作では必要かつ最適な美しいヌードを見せてくれたと思います。マッハマハマハ。
老いに対する負い目は、外観にあるというロッテさんの言葉もちょっと興味深くもっと突っ込みたかったり、追究せずにはいられないテーマがあふれておりましたー
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