かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『チェンジリング』
2009年 02月 25日 |
巨匠イーストウッド映画の世界では、絶好調セレブのアンジーもちゃんと非力で不憫な女に見えるよ。

1928年。ロサンゼルスの郊外で暮らすシングル・マザーのクリスティンの息子ウォルターがある日突然いなくなり・・・。



クリント・イーストウッド監督の映画は素晴らしい。冒頭から、その時代の空気感を切り取る美しいショットに立て続けに魅せられる。それらのつなぎ方、音楽の入るタイミング一つをとっても完璧だなぁって、始まってすぐに感心してしまうの。と、最初はそんな映像やら演出の技術的な洗練度に注視しているんだけど、ふと気づけば私は、もうそういう観点でスクリーンを見つめることをすっかり忘れて、この物語の主人公クリスティンの身の上に起こった、愛するわが子が失踪した代わりに別の子どもが届けられるという奇妙な事件のことで心は釘づけになるのだった。そう、映画監督の仕事ぶり、作り手の巧さを意識させないほどにそれは卓越しているのだ。

不安感と緊迫感が途切れることのない極上のサスペンス。いえ、これはもはや、身の毛もよだつホラー映画だったな。アンジェリーナ・ジョリーという濃厚で強烈な個性をもった女優は、決して一般人が感情移入しやすいタイプではないと思うのだけどね。その不憫な出来事があまりにも理不尽なものだから、彼女に同情するという感じではなくて、当事者の立場で戦慄してしまうのだ。被害者であるはずの彼女が警察に手を差し伸べてもらえないばかりか、彼らに都合の悪い存在となったために、非道なやり方で迫害されてしまうとは、腹立たしさに茫然。我が子が行方不明になって、やるせない思いを抱えている時に、力づくで精神病院送りだなんて、そのショックで本当に発狂しちゃうってば・・・。

この子は息子じゃないという真実は、法治国家では認められないはずはないと思うけれど、スタッフがグルになっている病院に閉じ込められてしまったら、正当な行動さえもとれないじゃないか。この時代なら(今だって)闘うすべを知らない非力な女性は、恐怖心から泣き寝入りをしてしまうこともあるかもしれないよね。(だからといって、よその子をずっと育てるというのも無理があるけれど。)でも、クリスティンは信念をもち、毅然とした態度をとれる女性だったから、イーストウッド映画の主人公になり得たのだね。彼女の姿にイーストウッドの心意気が重なって、熱いものがこみ上げてくる。

マルコヴィッチ牧師がいてくれてよかったなぁ。そういった立場の人が良識のもとで正しきことを後押ししてくれたから助かったけれど、宗教者が面倒を避けて言いくるめられてしまうことだってありえたかもしれない。メディアだって、気まぐれなものだし。真実は一つであるはずなのに、良心も正義も明らかなものであるはずなのに、それに沿った行動をとることが難しい社会に、改めてゾッとしてしまうのだった。猟奇的な殺人犯の存在そのものよりも、公権力者の腐敗・不正によって、市民の安全な暮らしや正当な行為が脅かされる方が恐ろしい。これは特別に荒んでいた20年代のロス市警にまつわるものあるけれど、全くの別世界のお話だとは突き放せない普遍的なものがあるから、題材に取りあげられたのだと思うからね。70代後半になってもなお、鋭いまなざしで社会を見つめ、私たちに大切なことを投げかけてくれるイーストウッドはやっぱりカッコいいなぁって思って嬉しくなるのだった。
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by CaeRu_noix | 2009-02-25 23:57 | CINEMAレヴュー | Comments(7)
Commented by manimani at 2009-02-26 05:32 x
おはようございます
そうなんですよね、事件が真っ当な解決の方向に向かったのだって、状況が紙一重でよい方向に作用したからであって、神父さんたちがいなかったら、マスコミが偏向してたら・・と考えると、ほんとうにおそろしい。
この映画はそういう社会の良識の大切さも訴えていたのだろうなと思いました。

またTBしてみましたが、ダメかも;;
Commented by manimani at 2009-02-26 05:33 x
あ!TB大丈夫でした^^
Commented by CaeRu_noix at 2009-02-26 23:26
manimani さん♪
正義は勝つ!と信じたいところですが、紙一重な状況でしたもんね。
そう考えるとそら恐ろしいですー。
今の世なら、ネットで告発しちゃうとか、情報収集や相談ももう少し手広くできるかもしれませんが、この時代は地域社会の中でしか身動きがとれない感じですもんね。
その中では、ぼくしぃのラジオ放送作戦は画期的だったようで。

そうですね。イーストウッドは皆に問いかけているのでしょうね。
当り前のことだけど、歯医者さんや学校の先生が別人だと証言すると言ってくれたところではグッときました。
あなたを応援したい気持は山々だけど、面倒はごめんだから協力できないわって、みんなが思っちゃったら終わりなんですよね。
昔の話、よその国の話、極端に不運な例、っていうことじゃなく。

TB受信は一時期、gooとlivedoorが全滅だったんですが、最近治ったみたいです♪
Commented by ぺろんぱ at 2009-03-01 20:03 x
こんばんは。

私も、ひたすらイーストウッド監督のヒューマニティー溢れる眼差しと真っ向勝負の心意気に改めて惚れ直した映画でした。

全ての人物に対して決しておざなりな態度でない、妥協を許さない姿勢で臨んでいることにも感服でした。

>70代後半

そうなのですね、でも、まだまだずっと撮り続けて欲しい人ですね。(*^_^*)

Commented by cinema_61 at 2009-03-01 20:32 x
こんばんは。
私もイーストウッド監督の冴えに感嘆しました。
実話をモチーフにしているとはいえ、これだけ見ているものをひきつける展開にもっていくのは監督の腕だと思います。
それにアンジーにも「17歳のカルテ」以来の演技力を感じました。
また、あの時代のファッション&帽子の被り方がgood!
そのせいで、彼女の唇が生きていた!
Commented by CaeRu_noix at 2009-03-02 22:42
ぺろんぱ さん♪
まっすぐに熱い心意気にうたれましたよねー。
私以前、アメリカには、直球で社会派映画を撮る監督がいないよなーってなことをつぶやいていたんですが(どうしてもエンタメ寄りになるか、ブラックユーモア系になるかという感じで)、いやいや巨匠がここにいるじゃないですかね。
どんなに問題意識が高くてもダメな映画はダメだったりもするのですが、イーストウッドは映画の作り手としてのセンス・技量が伴っているから、テーマも私たちのもとにガツンと響いてくるんですよね。
1930年生まれなんですよねー。
それで何ら衰えを感じさせないパワーがみなぎっていますよね。
『グラン・トリノ』も楽しみー。
Commented by CaeRu_noix at 2009-03-02 22:44
cinema_61 さん♪
本当に冴えてますよねー。シャープで的確。美しく。
「A True Story」というのが重くのしかかってきましたよね。
それが本当にあった話であろうがなかろうが、サスペンス映画としては大いに引き込まれる見ごたえのあるものだったんですけれど、まぎれもない事実を描いているということで、衝撃は大きくなり、味わいと思い考えることにも深み広がりがでてくるんですよね。
似たようなドラマでも全然緊迫感が感じられない映画も少なくはないから、この巨匠はなんでこんなに見せ方がうまいんだろうと感心するばかり。
そういえば、アンジーは『17歳のカルテ』で超演技派だったんですよね。
しばらくはそのことを忘れていましたが、確かにあの頃を思い起こさせますね。
『マイティ・ハート』でもよかったんですけど、今作はもっとよかったかな。
帽子がステキでしたよねー。
わはは。なるほど、唇がいきてましたね。
アンジーの唇をスクリーンで見るのはしんどいと思っていたこともあったけど、今回は気にならなかったので、こういうファッションはいいかも。
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