かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『彼女の名はサビーヌ』 Elle s'appelle Sabine
2009年 03月 06日 |
大好きなフランス女優のサンドリーヌ・ボネールが映画を撮った。



それもフィクションではなくて、一歳年下の妹を撮ったドキュメンタリー。サンドリーヌの妹サビーヌは自閉症なのだという。それは軽い気持ちでは見られない類の作品だよね。少し躊躇する気持ちもありつつ、あえて彼女が挑んだテーマを、彼女がフィルムにおさめたものを、自分の目で確かめたいと思った。

実績を積んだ俳優が、立場・名声・コネを使って、クリエイティヴなことにも手を出してみるなんていう悠長なものではないんだもの。作り手にとっては、創作の歓びよりも、葛藤や苦心がつきまとうのじゃないかと思える難しい題材。下手をすれば、実の妹の障害を利用して、世の同情をかいながら評価を獲得しようとしていると、批判的に見られる危険もはらんでいたかもしれないもの。勇敢なるチャレンジに拍手。

この映画のことは、カンヌ映画祭の監督週間に出品された頃に知ったのだけど、サビーヌについては、"サンドリーヌの一歳年下の自閉症の妹"という文字情報で知り得ていたことが全てだった。映画の本篇を見るまで、目にしていたサビーヌの姿といったら、映画のポスターに使われていた若い頃のものだけだった。去年、本作の先行上映がされた「カイエ・デュ・シネマ週間」にて、サンドリーヌの主演デビュー作『愛の記念に』を観ることができたので、10代の頃の彼女の姿がとても印象に残ったから、ポスター・フライヤーの写真を見て、サンドリーヌとサビーヌは本当によく似ている姉妹なんだなって思っていた。

だから、本篇が始まるやいなや、今現在のサビーヌの姿を目にした時は、驚きと哀しみの混じるショックを受けることとなった。今のサビーヌは少しもサンドリーヌに似ていないじゃないか・・・。ありのままの事実を映し出す、これがドキュメンタリーの力なんだよね。誰しもが、女優サンドリーヌ・ボネールのような美貌を保てるわけじゃないにしても、元はそっくりの容姿をしていた妹が、ここまで変貌を遂げてしまったなんて衝撃的で・・・。身体的な病気のために容姿や表情が衰えてしまったのなら仕方ないかもしれないけれど、体は健康であったはずだよね。虚ろな目がせつなくて。

精神科病院での5年間の入院生活でサビーヌはこんなふうになってしまったのだそう。そう、そもそも彼女は自閉症なのだと、予備知識を入れた私にはわかるけれど、サビーヌが若かりし時には、きちんとした診断を受けることができずに精神科への入院を余儀なくされたのだという。「自閉症」とは何ぞやっていうことは、韓国映画の『マラソン』 のレヴューを書いた時に、簡単に記したことを憶えている。専門的なことはまるでわからないけれど、少なくとも自閉症という発達障害は、精神病とは違うでしょうっていうことはわかる。間違った判断によって、病を改善するためにあるはずの病院で悪化することになるなんて悲しすぎる。

でも、悲しいだけじゃなくて、このフィルムには温かで確かな愛情が詰まっているの。施設のスタッフたちの献身的な仕事ぶりにも感心させられる。子どものような駄々をこねる彼らの体の大きさは人一倍で叱りつけるのも大変だ。人と直接接する福祉の仕事に従事する人はどこの国も充分な報酬と待遇を与えられるべきだって思ったり。そして、サビーヌは本当にサンドリーヌのことが好きなんだなぁっていうことに、ただただ感情が揺さぶられる。「サンドリーヌ、明日も会いに来てくれる?」って、何度も何度も繰り返したずねるサビーヌ。この台詞はもうたまらないよね。映画の手前、優しい姉さんぶることもなく、クールに答えるサンドリーヌの声に、長い長い姉妹の歴史を感じるの。

そして、それはただの感傷的な記録にとどまらず、毅然と社会に訴えかける。そこにあった自閉症への認識と治療法の問題点を追及し、同じような障害をもつ人々の家族はどう向き合っていけばいいのかということを投げかけている。部外者ではなく当事者家族の思いを代表しているのだから、そのメッセージは強く響くのだよね。この試みの全ては、妹への揺るぎない愛情に裏打ちされているということに心打たれるばかり。サンドリーヌの思いが実社会で実を結ぶことを祈りたい。サビーヌの笑顔が戻る日を願って。

公式サイトの用語説明
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by CaeRu_noix | 2009-03-06 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(4)
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Commented by BC at 2009-05-01 00:13 x
かえるさん、こんばんは。

同じ事を何度も繰り返し話すというのは自閉症の特徴の一つのように感じます。
いちいち相手にして答えるのもウンザリするんだけど、
無視するとパニックを起こすので
根気強く接しなければいけないから対応が難しいところです・・・。

健常者・障害者問わず女性は寂しがり屋の人が多いと私は思う。
サビーヌは5年間精神病院に入れられ、
今はケアの行き届いた福祉施設に入所しているとはいえ、
家族と離れ他人と暮らしているのだから、
それなりに気をつかう事もあるだろうし、不安になるのかもしれない・・・。
だから、サンドリーヌが来てくれるとホッとするのでしょうね。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-03 00:21
BC さん♪
ありがとうございます。
何度も何度も同じことを繰り返し言われたら、ウンザリしてしまうこともあるでしょうね・・。
でも、そうか、ちゃんと答えないとパニックしちゃうんですか・・・。
それは本当に根気がいりますね。
ご家族はさぞ気苦労も多いことと思われますが、サビーヌのことを思い出しながら、そんな家族の献身が素晴らしいなって思います。

女はさびしがり屋さんですよねー。
(って言ったら、男の方がさびしがり屋だーっていう意見もありそうな気がしますが。)
自由に暮らせる健常者ならば、寂しいという思いを紛れさせるほどに何かに取り組むことは可能なのだけど、サビーヌなんかはそんな思いをコントロールする術を知らないから、知らず知らずのうちに寂しさや不安でいっぱいになっちゃうのかもしれませんね。
サビーヌはサンドリーヌが大好きなんだなーっていうところがそれはもう微笑ましかったです。
Commented by mchouette at 2009-05-09 08:28
かえるさん おはようございます。
TBだけ飛ばしてコメントが遅くなってごめんなさいね。連休がおわってほっと一息の今です。「ミルク」「グラン・トリノ」「スラムドッグ」重なる映画は多々あるけれど、マイナーなこちらにお邪魔。
フランスって精神病にはもっと開けていると思っていたけれど、フランスの保守的な閉ざされた部分と、開かれて部分を垣間見たように思うわ。
しかし二人のサビーヌ。交差する二人のサビーヌの映像には衝撃だった。精神という眼に見えない人の内面を、外面に現われた症状で、その症状を抑えるために薬を投与される。それが内面を崩していく。
アメリカ旅行の映像をじっと見つめていたサビーヌの表情が生き生きとしていた。
施設にいる患者達の人格がきちんと描かれていた。
やはり受け入れる社会は狭いのだろうけれど現在サビーヌがいいる施設の入所も言外もあり、家族の費用負担もかなりだろうね。
思いテーマ。複雑な思いで劇場を出ました。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-10 01:44
シュエットさん♪
いえいえ、どういたしまして。
ご丁寧にありがとうございますー。
TB返しとかも面倒くさくって、大勢がレヴュー書いている作品に関しては、結構スルーしちゃうんですが、こういう映画については別です。
オハナシできて嬉しいです。
そうなんんですよ。ヨーロッパってとにかく福祉が充実しているイメージが強いので、フランスも充分にちゃんとしているんだろうと思い込んでいました。
ところが意外にも、こんなに問題があったんですね。
この映画を見ることがなかったら、それを知る由もなかったです。
投薬の副作用にもゾゾっとしましたね。
「チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室」で、嘘の症状を言ったら、じゃんじゃんいろんなクスリが処方されるっていうのがあったんですが、そういうのと大して変わらないように思うところがありました・・。
重いですよね・
ホントに、とにかく別人のようなサビーヌの姿にはショックを受けましたし。
と、ため息をついてしまう場面も多かったけれど、この映画を通して、サンドリーヌが変革を試みていることに希望を感じるのでした。
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