かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『失われた肌』 El Pasado
2009年 04月 27日 |
ブエノスアイレスの蜘蛛女。

若き翻訳家リミニは結婚12年の妻のソフィアと別れたが・・・。



ガエルくんは本当にチャーミングな俳優だなぁって思うの。名監督に愛されつつ多彩な役にチャレンジする俳優根性の座ったガエルくんの出演する映画というのは、毎度決まって味わい深いんだよね。絵に描いたようなわかりやすいカッコいい男なんかじゃなくて、むしろ人間的な弱さをもった複雑な男の役を自分のものにしているところに感心しちゃうの。物語の中に入り込んで見てしまえば、すごくやな奴だったり、イライラする奴だったりするんだけど、簡単に全てを突き放せない惹きつける何かも常にもっていて、ガエルが演じることによって、複雑な人間という生き物についての考察にも暇がなくなるのであった。それは彼ら特有の問題なのか、男と女の普遍的な物語なのかって。

ヘクトール・バベンコの映画を劇場鑑賞するのは初めてだと思う。『蜘蛛女のキス』はパピヨンさんに借りたVIDEOで観たのだけど、ファンタジックでせつないヒューマンドラマで私好みの作品だったな。原作小説も読んでみたもの。DVDスルーだった刑務所舞台の『カランジル』は、まるで作風が異なる強烈なものだった。そして、本作もまた毛色の違ったもので、映画作家バベンコの特徴というものを私は結局掴めなかったのだけど、一言でいっていまえば、映画としての本作のタッチ、質感はとても気に入ってしまった。デジタル技術的に進化したことでクリアに無機質になり過ぎた映画も多くなった昨今、こういうシネマの肌触りをもつ映画に出会えることが嬉しくて。物語内容的には少しも楽しいお話じゃないのに、この映像とそこにある空気感には見惚れてしまったな。邦題とは裏腹に、私が最も惹かれたのは、肌触りのようなものだったんだよね。

クリムトの絵画が象徴的に登場するところがまた好きなんだけど、画家クリムトやクリムトの絵画の世界を重ねたくなるような物語でもあった。もちろんあんなふうに金箔が散りばめられたようなゴージャスさはないのだけど、心が移ろいながら、複数の女を愛し、エロスとファム・ファタールの物語であるところがね。メキシコやブラジルの土臭い熱っぽさとは趣が異なる洗練された都会ブエノスアイレスという街はやっぱりどうしたって映画的にせつなくロマンチックだったりするんだよね。主人公リミニの身の上を思うと、心穏やかではいられないというのに、もどかしい思いを抱えながらも、映画の魅力にどっぷりハマってしまった。

別れてもリミニを忘れられないソフィアの挙動には何度もゾッとした。女って、こういう一面はあるよねって思いつつも、これは明らかに異常行動でしょうって、ホラーな怖さが迫りくる。でも、観客の多くがそう感じてしまう演出でありながら、『危険な情事』なんかのように女の方だけを100%の問題の人物にしないところがいいんだよね。リミニに同情をする反面、彼の優柔不断さやいつも場当たり的に恋愛を始めてしまう浅はかさには罪深いものを感じてしまう。理性的に行動できる人から見たら、とことん愚かな男なのかもしれない。でも、私にとっては、そういうのってわかるなぁという部分と、だからダメなんだってばーっていう部分の両方があって、主観的にも客観的にも困ってしまう。男ってそうだよね。女ってそうだよね。でも、それはあんまりでしょ。じゃあ、どうすればここまで悲劇を生まなかったんだろう。ハラハラしたり半ば呆れたりしながら、思考がとめどなくあふれてしまうのがこの映画体験のおもしろさかな。

ソフィアはおぞましい女だけど、ある意味すごいよね。互いが問題を抱えてなく平等に順調な時ならば、いい関係でいられる男と女も、危機に見舞われ不安定になると、いとも簡単に愛が冷めていってしまう。リミニが常に絶好調な男であったら、ソフィアの元へ戻ることなんてなかったかもしれない。でも、結局、愚かなリミニを受け止めることができるのはソフィアだけだったのだよね。そして、リミニの不安定な状態を自ら生み出しているのが他でもないソフィア自身であり。そんなにしつこくしたら男に嫌われちゃうよーという行動を改めることなく、最終的には愛しい彼を取り戻しちゃったんだもの。ああいった弱さをもったリミニは決して犠牲者ではなくて、ソフィアにふさわしい男なのかもしれないとさえ思えたり。でも、記憶に障害さえ起きなかったらなぁとも思っちゃうし。思いは彷徨い続けるの。
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by CaeRu_noix | 2009-04-27 11:21 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(10)
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タイトル : 失われた肌 ▲59
時々こういう作品を見て、“愛”について考えるっていうのは、私は好き。その“重さ”に耐えられない人にはキツイことだと思うけど。... more
Tracked from 我想一個人映画美的女人b.. at 2009-04-29 13:59
タイトル : 失われた肌 / El Pasado
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Tracked from あーうぃ だにぇっと at 2009-04-29 16:46
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Tracked from いとしこいし ーいとしい.. at 2009-05-15 08:33
タイトル : 失われた肌
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Tracked from 心の栄養♪映画と英語のジ.. at 2010-03-01 10:05
タイトル : 「失われた肌」
むき出しの愛・・かな〜・・... more
Commented by ぺりーと at 2009-04-27 16:45 x
こんにちはーお久しぶりです(^^ゞ
バベンコ監督&ガエル君映画と聞いて、これは無理してでも見に行かねば!と思い、見てきました。
ラテン映画のこういうアナログな感じの映像ってやっぱりいいですね~。
クリムトの絵画は、なんとなくほこりっぽそうな室内に、微妙に赤茶けて色褪せたような感じになって掛かっていたのがまたイイなあと思いました。
冒頭のシューマンの「子どもの情景」も、なんとなく意味深っぽいなあと思いました。
Commented by CaeRu_noix at 2009-04-27 23:24
ぺりーと さん♪
おお、お久しぶりでーす!
その後お元気でしたでしょうかー?
ガエル・バベンコは必見ですよねー。
フェレ映画が日本にやって来ないので、とりあえずガエルやディエゴに声援を送りましょうー。
この映画の映像の質感、すんごくよかったですよねー。
ザラリとした感じで物語の内容によくあってました。
あそこのスクリーンは小さいから好きじゃないんだけど、一番前で観た私はその肌触りを堪能。
クリムトの絵画が見えた瞬間、この映画は気に入るってことを予感しました。
全てが意味ありげなんですよね。2人の関係とクリムトの画の解釈募集中ー
2人の部屋の佇まい、射し込む光とか、窓辺の雰囲気とかがまたいい感じで。
なるほど、あの絵も2人の日々を物語るような色あせ具合がまたオツでしたね。
美術さんの仕事もいいなーって思いましたもの。
そうか、冒頭はシューマンでしたのね。記憶はうっすらです。すみませんー。
終盤の写真のエピソードに出てきた子どものことも思い出しつつ、彼が子供っぽい人間だっていうことを最初から匂わしていたってことですかね。
うーん、また観たくなってくるー。
ラテンな映画、注目していきましょうねー。
Commented by ぺりーと at 2009-04-28 00:22 x
再びこんばんは~。
クリムトの絵は、ソフィアにとっては美しい二人の愛を象徴するものだったんでしょうけれど、リミニにとっては今更感を助長させるというか、なんだか綺麗すぎるし大仰でベタっていうかで、余計に彼の心をウンザリとイラつかせるものとして映っていたんじゃないかなあという気がなんとなくしました。
それから、ソフィアがリミニにあれほど執着した理由としては、二人が幼馴染であり、子どもの頃からずーっと愛していた人だからっていうのが大きいと思ったんですけど、シューマンの曲はそうした子供時代の無邪気で純粋な愛を象徴していたのかなあ、なんて。(あっでも別に何の根拠も無く、勝手になんとなくそう思っただけですけど^^;)

それはそうと、フェレ映画、来ないですねえ~。。。(寂)
Commented by CaeRu_noix at 2009-04-28 23:04
ぺりーと さん♪
再びぐらっしあす
そうですねー。「クリムトの絵のあるお部屋なんてステキ!」って思ったけど、リミニの立場からしたら、ウンザリなものだったかもしれないですな。ソフィアって、徹底的に思い込みの激しい女だったんだなとしみじみ。この絵は私たちの愛の象徴よと誇らしく幸せな気持ちで絵を飾り、眺めていたのでしょうねぇ。それを横目にゲンナリするリミニ・・
そうか、彼女はそうだし。彼が彼女をキッパリ断絶できなかったのも、性格的なものばかりでなく、12年の結婚生活というより、幼馴染の絆の強さ・愛着が無下にできないものだったからかもしれませんね。そういえば、原題は「過去」?それぞれに過去に囚わてしまった二人。大人になってからの複雑な愛憎劇を思うにつけ、子ども時代を思い出すそのシューマンの清らかなメロディはせつないものとして響いたり。全てが意味深ー

「あなたは子供みたいなところがある」とクララに言われて「子供の情景」が作られたそうですが、『クララ・シューマン 愛の協奏曲』が夏公開。去年のラフマニノフの映画はアレでしたが、クララのはよかったですよー

フェレ映画はきませんねぇ・・。結構出ているようなのに。
がんばれー!
Commented by ぺりーと at 2009-04-29 14:33 x
みたびこんにちはー(すみません^^;)
クララさんの映画、予告編を見てみました。
とても良さそうですねー♪
ブラームスがやけにいい男だったので、しええ~っと思いました(笑)
Commented by CaeRu_noix at 2009-04-29 23:25
ぺりーとさん♪
どむどむー。
トレーラーをチェックいただきだんけしぇーん。
私はドイツ映画祭で見たのですが、とてもよかったんですよ。
そうそう、いいところに気づきましたね♪
私も青年ブラームスがステキだわーってまず思いましたの。
オゾンの『焼け石に水』にも出ていたマリク・ジディー。

『それでも恋するバルセロナ』だとかにちょろっと出てくれればよかったのにー。<ふぇれ
去年からハビエルばっかりでもうイイって・・・
Commented by とらねこ at 2009-04-30 21:00 x
こんばんは~、かえるさん♪
『蜘蛛女のキス』、懐かしいですね!私は正直、ヘクトール・バベンコという名前も知らずに見ていた頃で、今回この作品が来て初めてあっそうだったのか!って感じでした。いや、これも忘れられないです。例のコニ子、覚えていらっしゃいますでしょうか?彼女がよくこの映画の話をしていました。お気に入りだ、お気に入りだ、と私以上にシツコいです(笑)彼女はあまり映画を見ないので、ついこないだもこの話してました。なんだかまた見たくなりましたね。でも、DVDではまだ出てないのかな、見つかりませんね。

本当、この空気感は不思議にも心を掴まれましたね。『危険な情事』の影響、これひょっとすると大いにありそうですね!あのテイストもまた私は決して嫌いにはなれなかったです。

人の触れたくないところに、絡みつくようなテイストの映画でしたね。ガエルくんが素敵なので、目は楽しく見れてしまったのが幸いでした。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-02 01:46
とらねこ さん♪
私もヘクトール・バベンコという名前はインプットしてなかったですー。そうそう、とりあえず、蜘蛛女のキスの監督なのねーって感じで。
おお、コニ子さんはお元気でしょうかー?蜘蛛女キスがお気に入りなんですねー。そして、コニ子さんにも『失われた肌』を見てほしいかもー。
そう、DVDは出てないみたいですよね。私はお借りしたVIDEOで観たのですが、TV放映を録画したもので画質があまりよくなくて、字幕がちゃんと読めない部分があったりしたのが残念だったので、劇場鑑賞などしてみたいです。

『危険な情事』はその当時、怖い思いをすることを楽しむエンタメなスリラーとしては大いに面白かったかと思いますー。今は、加害者を危ない人でくくっちゃう系はあまり好きじゃないかもしれないんだけど。そんなわけで、私は本作のようなスッキリしないタイプが断然好きかもです。
そうなの、こんな女コワーイ、こんな男ダメ過ぎーって他人事として見ちゃうのではなく、傍観できないものとして絡みついてくるところがミワクでした。
ガエルくんでよかったー
Commented by こべに at 2009-05-15 09:18 x
おーら、あみーご。かえるさん☆

さすが、かえるさん♪シネマの肌触りですか~!!
ホントに!ちっとも楽しい話ではないのですが
映像の質感やそこにある空気に見惚れてちゃいますよね!
最後に文字がくるくる~ってなっちゃうとこなども
小躍りしたくなるよな嬉しさをカンジましたっ☆

げっ!ワタシにも、こんなヤなとこがあったんだー
でも、そこまでやるのはどうかと思うしやらないしー
てか、男も悪いんだよなぁー、
でも、彼には彼女が合ってるんだろなぁー
で、何でこの邦題なんだろ?
などなど、思いは彷徨い続けますね~

観終わってスカっとしちゃう映画も良いけれど
いつまでもまとわりついてくるよな映画はもっとスキですぅー☆
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-16 00:12
こべにさん♪
あみーごー。うんぽこ。
そうそう、肌ざわりんです。
映画って、多くは視覚で(次いで聴覚で)受け止めるものなのだけど、触覚に伝わってくるものってありますよね。
手触り、肌触り。湿度や匂いがついてきたり。
そーんな風に感じられちゃう映画がやっぱり心に染みるんですよねー。
こいつらったら、ホントに困ったちゃんだなーって理性的は思ってしまうのに、心のざわめきからは逃れられませんでした。
そして、美しいショットに惚れぼれー
ソフィアの言動、行動はちょっと尋常ではなかったですけど、リミニの優柔不断さもジゴウジトクな罪深いものですらあったけど、どちらも突き放せない感じでー。
ここまではやらないけど、そこに陥ってしまう可能性はないとはいえないかもー。
邦題は意味不明だけど、雰囲気はいい感じっぽいですよね。
スカッと爽快映画も楽しいですけど、こういうのに出会えることこそ映画好きの歓びでっす。
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