かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『グラン・トリノ』 Gran Torino
2009年 05月 03日 |
How Grand!偉大なるグランパ。偉大すぎる映画人。



みんながミック・ジャガーになれないのと同様に、みんながクリント・イーストウッドになんてなれやしないのだけど。せめて、みんながイーストウッドのメッセージを、その男の生き様を心に刻みつけるべしだよね。俳優引退に際してのアメリカ総括だ。

私もまるで、彼の自慢のヴィンテージ・カーを譲り受けたような気分。本物の価値あるその重みがずっしりと響くの。あまりにも中味が濃くて、一度に受け止めきれないほどに多くのものが込められていたのだけど、全体を通して、さすがの78歳だといたく感銘を受けたのは、次世代に伝えるというテーマが力強く描かれていたこと。

そうなんだよね。めぐる世界、人の営みの中では、人類の叡智も、個人が経験で学んだ教訓も、子ども達や孫たちに伝授していくことが、上の世代の人間の重要な務めなんだと思うから。そんな構造が崩れがちな現代社会において、イーストウッドはそれを実にカッコよくやり遂げてくれたのだった。もはや血縁にはこだわらず、人種や民族の垣根をサラリと越えて。人生訓という形なきヴィンテージものを、モン族のタオに、そして観客の私たちに授けてくれるのだった。文字通りの隣人愛とかけがえなき遺産。

米を食する国の人間としても、最初はウォルトの人種差別姿勢にビックリしたよね。肌の色でひとまとめにするなんて酷いよーって思ったのだけど、そんな刺々しい彼が主人公だからこそ、その後に続く出会いと交流の物語が味わい深いものになるんだよね。差別している時はどこの国でもみんなイエローとひとまとめなんだけど、モン族という特有の民族のことを知ってコミュニケーションをはかる中で、彼はその1人1人ときちんと向き合って接するようになる。目新しくもない展開なんだけど、エラく心打たれちゃうんだよね。何しろ、寡黙な偏屈ジイサンが、他者との交流を通して、心を解きほぐしていくというドラマには私はめっぽう弱いのだもん。

イーストウッドが演じていることにつきるのか、昔堅気で口は悪いけど、一本筋の通った男気のあるウォルトのことを好きにならずにはいられないんだよね。だから、息子家族と心通わせていなかった孤独な彼が、隣人とふれ合いを通して、笑顔を取り戻してくれたことが嬉しくて。ユーモアも冴えわたっていて、笑いがあふれるシーンも多く、それゆえに微笑ましさから更に泣けてしまったり。『モン族の少女 パオの物語』という映画を観たので、記憶にあったモン族だけど、ベトナム戦争中に米軍に協力したことから国を追われ移民した人たちがいたとは知らなかった。多民族国家アメリカの中でモン族にあえてスポットがあたることはなかなかないと思うのに、イーストウッドは一味違うなぁ。

偏見の壁を越えての疑似親子のふれ合いの物語っていうだけで終わったとしても、私は充分に感動をして満足をしたんじゃないかと思う。でも、もちろん、イーストウッドの映画は心温まるだけじゃ終わらない。血と暴力の国アメリカにおける暴力的報復に関しての巨匠の結論が示されるんだ。ウォルトの最後の選択は、計画としてはあまりにも完璧すぎて、そのただ衝撃を受けるしかない。あまりにも心憎いからこそ、哀しくて哀しくて。愛する隣人を苦しめたタチの悪いチンピラの制裁を、未来あるタオを危険に曝さない、その手を汚させないことを徹底した上で、終わりなき暴力の連鎖を断ち切るのと同時にやり遂げるなんて。そして、ずっと心に陰を落としていた戦争で人を殺めたことに対する贖罪。現実世界の戦争、暴力・殺生を繰り返すことの愚かさにも鉄拳をも振り下ろすように。呆然としちゃうほどにカッコよすぎるよ。
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by CaeRu_noix | 2009-05-03 10:35 | CINEMAレヴュー | Comments(12)
Commented by Minita at 2009-05-03 20:00 x
かえるさん、こんばんは~!
「チェンジリング」に続いて、これほどの作品を届けてくれるんなんて、
イーストウッド監督は、最高にかっこいいですね!

最初のお葬式のいかにも不機嫌という表情で、どれだけこの爺さんが
偏屈で頑固者かすぐわかり、またもやすぐにストーリーにひきこまれました。
偏見のかたまりどうしのモン族のおばあちゃんとのバトルには
笑わされましたし(笑)

次世代に対する暖かな愛情溢れるメッセージには圧倒され、エンドロール中は涙がとまりませんでした。
彼の遺言のような作品に思えてしまって、
「ひょっとして監督も先が長くないんじゃ・・・。」と
一抹の不安を抱きましたが、すでに次回作の撮影中なんですね(笑)
まだまだ元気な驚くべき78歳~♪
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-04 09:23
Minita さん♪
歳をとって、いまひとつ冴えが感じられなくなっちゃう監督なんかもいたりする中で、イーストウッドってば驚異的に素晴らしいですよねー。
とても評判のいい本作ですが、自身のこだわり・スタイルを追求し続けながら、こんなに高水準に良質に、それで万人の心を揺さぶることができるなんてスゴイです。

筋金入りの頑固ジイっぷりには惹かれずにはいられませんよね。
そんなキャラだからこそ、ユーモアのあるシーンが素晴らしく効果的で。
おばあちゃんとのバトルはホントにほほえましかったですよねー。

ウォーリーとスー、タオの交流な場面から断続的にナミダナミダでしたが、あのサイゴはもう哀しさとグラン感銘にグラン涙でしたよねぇ。
そう、遺言でもあると思います。
もちろん近いうちに亡くなるなんて縁起でもないんだけど、年齢的には常にそういうことを意識せざるをえないでしょうし、映画というのは、ソフト化されたり、リバイバル上映されたりもするから、ずっとずっと先に、これは彼の遺言の一つだっていう受け止め方ができると思いますー。
もちろん、絶好調な今、まだまだじゃんじゃん活躍してほしいですねー。
Commented by manimani at 2009-05-04 18:26 x
こんにちわ〜〜
次世代に託すという、その託されたモノは非常に重いですよね〜
ダーティハリーばりに暴力で解決など出来ないのだというのは確かだとして、では身を張って立ち向かわなければ人生は守り通せないのだと言われると、そういう社会もまたハードですし、人類の理想ではないでしょう。
結局答えではなく問いをタオに引き継いだのだと思われましたね〜
ああ、重い重い・・
Commented by cinema_61 at 2009-05-04 20:33 x
こんにちは。
俳優イーストウッドの見納めになるかも知れない映画!見事に観客の心を掴みましたね。(映画館ですすり泣く声多々)
戦争によって負う傷は、モン族のタオもウォーリーも同じ、その共通項が彼を果敢な行動に走らせたのですね。(丸腰で行くとは!)
本当の意味での頑固親父・・・・・日本にもいるのかな~
ただ、トヨタやホンダの車が象徴的に出ていたり、同じ米食い虫民族として、ちょっと苦い場面も。
イーストウッドの後姿はステキ!足が長くて・・・・。
Commented by ノラネコ at 2009-05-04 22:33 x
いやあ、一人の老人の生き様に圧倒されました。
こんなにシンプルな映画なのに、含まれている事の深く、広い事。
78年という作者の人生に蓄積された者が、最高の形で昇華された感じですね。
この作品に出会えて本当に良かったです。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-05 10:53
manimani さん♪
そうですねー。
ウォルトの決断はウォルト自身が次世代のためにやったこととして胸をうつものでありましたが、次世代が彼の行動に倣うべきということではないですもんね。
じゃあ、どうしたらいいんだろうというのは難しいところではありますね。
難問が引き継がれたということですね。ううむ。
重いですね。しかと受け止めなくちゃです。
かつての出演作で主人公がやってきたことを否定するかのような行動になっているところがとても興味深く。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-05 11:10
cinema_61 さん♪
見事でしたよねー。
アメリカ人として朝鮮戦争で人を殺したウォルトも、ベトナム戦争後国を追われて移民してきたモン族の二世も今や同じアメリカ人なんですよね。
戦争の犠牲者というのは、直接の砲弾の死傷者ばかりではなく、関わった者たちは多様な形で負債を抱えるのですよね。
負債を遺産にかえたあっぱれな決断でした。

決死の行動に走らせたのは、罪滅ぼしと幕引きのためだったのかと思いますが、丸腰であったことで、チンピラどもの罪を決定的にすることができたわけで、その賢さには参りますよねぇ。

日本にも頑固ジイは多いと思うけど、それでいて正義感にあふれ、勇敢な行動力のある人というのはあまりいなそうですよね・・。

クライスラーが倒産するご時世。かつての産業の繁栄の象徴であった自動車会社の工員だったという設定がまた絶妙で。かつてはアメリカ市場を席捲した日本車だって、アメリカの不況で自動車産業全体がダメージを受けちゃったわけですし。経済好調期なら、そんな日本ネタを申し訳ない気持ちで見たと思うのだけど、今やどっちもどっちかもって感じで。

ホント、カッコイイ足長おじさんの姿を見られなくなるのは寂しいですよねー。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-05 11:15
ノラネコ さん♪
そう、実にシンプルな映画ですよね。
なのに、なんて多くのことが盛り込まれていたことか。
ベンジャミンバトンのような描写の仕方がなくとも、ウォルトの人生を通して、アメリカを振り返ることができるという構造が素晴らしく。
さほど多くが語られているわけじゃないのに、ウォルトの78年の生き様が有りありと浮かび上がってきて、圧倒・魅了されずにはいられませんでしたよね。
78歳だからこそ作れたものなのでしょうし、78歳の彼の作ったものだからこそ、本物の味わいがある。
作ってもらえてよかった。出会えてよかったですよねー。
Commented by kazupon at 2009-05-05 20:31 x
かえるさん

イーストウッドの映画に出てくる人って常に結構わかりやすいキャラ設定
になってると思います。だからいつも人的などんでん返しとか姑息なことがない分どーんと胸に映画がせまるのかなぁなんて思ったり。

>暴力的報復への巨匠の結論

いやいやほんとそう考えると深いですよね!
この映画、教会から始まって、教会で終わる映画で、あの神父・・
これまたすごくイイキャラだったんですけど、とのやりとりと最後の
行動とかを考えると、宗教的な意図もややありなのかと感じます。
「タオだったら報復します。。。自分だったらあなたに話にきます」
なんてセリフとかすごくきました。でもほぼ元の脚本通りに監督してるそうだからこの脚本を選ぶイーストウッドの目線はすごいなぁ。
なんかもう全体的にまいったって感じです。
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-07 01:26
kazupon さん♪
そうですねー。
わりと紋切型というか鑑賞者の誰もがその人物を容易に把握できるものになっていますよね。しっかりした人物造形があり、ちょっとしたエピソードを通してその人となりを少しずつ見せていき。深みは感じさせるんだけど、掴みやすいっていうところが上手いですよね。

葬儀に始まり葬儀に終わるというのがまた感慨深く。
死というものに対峙するばかりじゃなく、広い意味での信仰についても考えさせられますね。
そう、あの若造神父の存在もポイントでしたね。これまたお決まりのパターンではあるけど、最初は拒絶していたその彼と本気で語らうようになっていくのは興味深い流れでした。
どうすべきか、とはまた別で自分がその立場だったらどうするかっていうのは映画を見ながら考えることってよくあるけど、映画の登場人物がそういう台詞を言ってくれちゃうのはドキリとします。難問ですもの。
イーストウッドのディレクションの素晴らしさは当然のことながら、この脚本も本当に秀逸ですよね。
最後の出演作なら、いくらでも豪華キャストにすることもできただろうに、そういうタイプの作品にはせず、あえてモン族の彼らと共演したっていう心意気が素晴らしすぎー
Commented by SGA屋伍一 at 2009-05-14 07:48 x
すいません。こないだ「今度の『グラン・トリノ』は誰も死なないそうですよ!」とか言っちゃいましたけど、約一名亡くなってました・・・

でもイーストウッドの経歴の中では、かなり穏やかな部類の作品だったと思います。『マディソン郡の橋』なんかは、たぶん誰も死んでないと思うんだけど(ってまた見てないのにそういうことを言う)

イーストウッドおじいさんの、まことに大いなる遺産でございました。まだ生きてますが、生きてる内から世界遺産決定ということで

近年の彼の映画は掘り下げればいくらでも深く語ることができるわけですが、同時にわたしのようなニブチンにもわかるシンプルな教訓を教えてくれる。だから好きです
Commented by CaeRu_noix at 2009-05-14 23:13
SGA屋伍一 さん♪
誰も死なないって言ってたんですっけ?
私はイーストウッド監督作はそんなに網羅してないので(出演作はもう全然)、イーストウッド論なアプローチはできひんのですけども、まぁ、確かにたぶん、これって穏やか寄りなのかもしれませんね。軽めらしい。
『マディソン郡の橋』は原作は読んだけど、映画は未見です。メリル・ストリープがあの役を演じるなんて絶対納得いかないから観る気もせず。原作よりも映画がいいっていう人も結構いるんですが、私は原作の味わいが気に入っているので、映画は観ませーん。

そういえば私、「世界遺産」という言葉に納得がいかんのですよ。
地球は今も生きているのに、なんで公園なんかが世界遺産と呼ばれちゃうの?
遺跡というのは、その文明が滅びているから有りな言葉だと思うんですけど、遺産っていうのは違う気が・・・。最初に heritageを遺産と訳した人は誰ー?
それを思うと、生きている人の遺産っていう表現もあまり面白みはないかもしれませんが、やはりこちらの方こそあえて遺産という言い方をしたいなぁ。

深みも崇高さもあるのだけど、わかりやすく万人の心に響いてくるんですよね。
こんな映画がこの世界には必要ー
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