かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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(映画を見るのにいそがしくてブログはもう)
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『レスラー』 The Wrestler
2009年 06月 18日 |
燃える闘魂に萌える。生きるってこういうことだ。



ヴェネチア国際映画祭のコンペにダーレン・アロノフスキー監督がプロレスラーを主人公にした映画を出品したと知った時はその意外さに驚いたものだ。『π』、『レクイエム・フォー・ドリーム』、『ファウンテン』という独特の映画を作ってきたインテリなアロノフスキー監督は、理知的だったり、クールだったりする印象があるばかりで、およそ肉体勝負の熱いファイターを描くことに興味を持つタイプには思えなかったんだよね。なのに、そんな一見不似合いな題材で見事に金獅子賞を獲得し、ミッキー・ロークにアカデミー賞主演男優賞ノミネートの栄誉をもたらしたのだから、その快挙、果敢な闘志に拍手したい。

これがまた『π』の監督が手がけたとは信じがたいほどに、レスリングの試合描写は興奮ものの迫力で、哀愁と背中合わせの男の熱い熱いドラマなのだ。彼の姿に心打たれずにはいられない感動作なんだけど、感情が揺さぶられたこととは関係なく、全体を通して、なんて出来のいい素晴らしい映画なんだろうって感じた。まるでそのレスラーが実在の人物であるかように、彼の生き様には本物の輝きが宿っているんだもん。こうして見れば、俳優という職業もレスラーも似たようなもので、パフォーマンスによって観客を楽しませるのが仕事。演じるミッキー・ロークがそのまま乗り移るようにランディになりきったことも何だか必然。皆が言うように落ち目になったランディの境遇が俳優ミッキー・ロークに重なるという意味合いではなく、体を張って演じる職業の重なりが面白く思えた。ミッキーのファイトは完璧だったね。

根性なしの私は肉体の痛みというものにとても恐怖心を抱いてしまうので、自分が痛いのは想像するだけで耐え難いし、人が痛い思いをするのを見ることも苦手。だけど、『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』で容赦なく映し出された、肉体が傷つけられ血が流れる映像に、それほどに身が凍りつかなかったのは、それが観念的な非日常世界であって、アートで低温のものだったからなんだと思う。それに比べて、このランディたちプロレスラーの熱い格闘はどうだ。フィクションのものだとわかってはいるはずなのに、顔をしかめずにはいられない。さすが、『レクイエム・フォー・ドリーム』で観客を戦慄させたアロノフスキーだ。ステープルは勘弁。痛々しい、でも、とことんエキサイティングだ。ああ、これがレスラーの闘いなんだなっていうことを臨場感いっぱいに心に刻みつけるのだ。

プロレスの試合会場にいる観客の興奮とはまた違い、映画の観客の私たちがリングの死闘を高揚感いっぱいに観戦してしまうのは、その舞台裏をじっくりと見せてもらったからなの。髪をブリーチし、日焼けサロンで肌を焼き、体作りにはトレーニングばかりではなく、薬も使う。そして、平日はスーパーで生活費を稼ぐ。そんな日常があって、リングの上で熱く闘うレスラーの姿がそこにあるんだということに、仕事とプライベートに境界があるなんて捉え方はなく、ただレスラーとして生きる1人の男がいるということに、じんわりと感動が広がっていくのだ。他の何を失っても、命の危険がすぐそこに迫っていようとも、レスラーとして生きていくことだけが本望なんだね。過去の栄光を懐かしむばかりじゃなくて、挑み続ける人間である熱いレスラー、ランディの生き様はめちゃめちゃカッコいい。

ウマいなーと思ったのは、ランディの意中の彼女もまた自らの肉体でパフォーマンスをし、人々の興奮を煽る職業に就いているということ。ランディとキャシディが惹かれあったのはそういうシンパシーも含まれていたのかもしれないよね。職業に貴賎はなくて、皆そうやって毎日を懸命に生きているということを、方向性は違えども二つの類似の職を通して見せてくれているのが興味深かった。リングの上のサクセスを中心に物語った格闘家ドラマは数あると思うけれど、本作はヒーローを描くアメリカ映画の王道ものとは違って、日常視点から人間を描き出しているところに深い味わいを感じるのだった。
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by CaeRu_noix | 2009-06-18 23:59 | CINEMAレヴュー | Comments(14)
Commented by KLY at 2009-06-19 01:20 x
こんばんは^^
ランディとキャシディ、2人は良く似たもの同士でしたねぇ。両方とも自分の居場所を捜していたし。2人がその後どうなったのかは描かれていないけれど、きっと上手くいったんじゃないかって思えます。
80年代って私は思春期真っ盛りでした。ミッキー・ロークといえばハンサムな若手ハリウッドスターの代名詞でしたし、プロレスも大好き、そしてB・スプリングスティーンを含めて洋楽にはまっていた時期でもありました。それだけに彼らが80年代最高!って叫ぶところでは、共感しきりでした。^^
Commented by CaeRu_noix at 2009-06-20 01:38
KLY さん♪
ランディとキャシディ、通じ合うものがあったのでしょうねぇ。
そうですね。もしも、ランディが無事だったとしたら、2人はよりよい関係に向かうことができたでしょうね。
2人の音楽トークの盛り上がりのシークエンスは楽しかったですよねー。
80年代は最高で、90年代はダメっていうのは妙に納得しちゃったんですが、それって後で思うと、音楽に限定した話じゃなくて、俳優ミッキーロークの盛衰についてのコメントでもあるような感じですよね。
80年代の熱さを凝縮した映画って感じでした。
KLY さんはどんな思春期を過ごされたのでしょうー。
私もいわゆる思春期ではありましたが、ミッキー全盛期はリアルタイムで認識がなかったんですよね。(ハリウッド・スターはマット・ディロンとか、その後はトムクルとか) でも、確かに、ミッキー・ロークはセクシーなイメージだったような記憶があります。最初にちゃんと観たのはナインハーフかも。
そんなトークと繋がって、B・スプリングスティーンの曲がサイコーでしたねー。
あ、プロレスは子どもの頃、弟と一緒にTV観てました。ハルク・ホーガンや上田馬のすけが印象深くー
Commented by とらねこ at 2009-06-21 15:32 x
こんにちは、かえるさん♪
>これがまた『π』の監督が手がけたとは信じがたいほどに
>さすが、『レクイエム・フォー・ドリーム』で観客を戦慄させた
そうなんですよね!撮り方も全く違ってたり、テーマも全然違ってたり、同じ監督とは思えないほどの作品群なので、余計驚いてしまいます。
でも思い切りが良い点に関しては全部そうで、きちんと伝わってくるんですよね。
それも器用などという言葉で形容する感じではなくて、テーマに則して最高のモノを作ろうという気概を感じました。
『レクイエム・フォー・ドリーム』では、ドラッグをやる人に圧倒的に恐ろしく響くでしょうし、『ファウンテン』では、錬金術的・密教的真理の追求に、「私が一番見たかったのはこんな映画だ!」と心底ヤラれてしまいました。世間的には評価が低かったけれど、当時かえるさんも楽しまれたご様子だったこと、ブログをやっててとても嬉しかったことの一つです。
Commented by CaeRu_noix at 2009-06-21 23:01
とらねこ さん♪
ダーレン♪ダーレン♪
誰も彼もが、ミッキー・ロークを語ることに熱が入っている中で、とらねこさんとは監督についてお話することができてとても嬉しいです。
ミッキーを栄光に導いたのは、スタジオのパワーに屈しない・妥協しない監督の強い意志があったからなんですもんねー。
本当に、題材も手法もバラエティに富んでいて、興味が尽きない映画作家でありますね。
そうですね。多様なタイプにチャレンジしていながら、いつも一本筋は通っている感じでちゃーんとテーマが伝わってくるんですよね。
そうそう、『ファウンテン』はホント、世間の評判がイマイチでしたが、とらねこさんとはそのよさを分かち合うことができたので嬉しかったです。
そして、本作は多くの人に感動を与えたようで、監督の株が上がったのがよかったですしね。
Commented by 俄フェレリスタ at 2009-06-21 23:58 x
こんばんは。初めて、未見の映画にコメントします。
この映画での、ミッキー=ローク復活が話題ですね。J. トラボルタにとっての『Pulp fiction』みたいな感じですかね…ウウム。
そんな彼の記事が、ヤタガラス版GQ2009年7月号にあります。独版Vanity Fair2009年5月号の翻訳みたいです。何と! J. シュナーベル監督によるインタビュー&写真ですよ! 撮影中の裏話や自身の心境を色々語ってます。読み応え充分ですよ♪ 8月号が今月24日に出るので、お早めにお願いします。
ミッキー=ローク@アカデミー賞の写真を見ました。…白スーツだけでも浮くのに、鎖+長髪って、どうよ…。でも、彼に良く似合ってましたね。チョイ悪オヤジ気取りな人が、尻尾巻いて逃げますな、ハハハ。彼が今後、良質の作品に恵まれますように。
伊勢市では、7月25日から上映です。感想を書きたくても、遅いですね…(泣)。
Commented by CaeRu_noix at 2009-06-22 08:07
俄フェレリスタ さん♪
コメントありがとうございます。
結局、ミッキー・ロークはオスカーGETはならずでしたが、ショーンよりもミッキーの方がより素晴らしかったんじゃないかという声もちらほら。
ミッキー・ローク全盛期の活躍を実感していなかった私は、『ドミノ』や『シン・シティ』でとっくに復活していたじゃんって密かに思っていたのですが(いえ、本当は『SPUN スパン』だって)、そんなもんじゃまだまだで、大ハマリの役どころで主演で大熱演の本作こそがやはり復活っていうことなんでしょうね。
『パルプフィクション』のトラボルタのイメージに近いかもしれません。
インタヴュー記事紹介ありがとうございます。http://www.gqjapan.jp/issues/
私は別段ミッキー・ロークファンでもないんですが、シュナーベル監督がインタヴュアーというのがちと興味深いですね。
"脱・メタボ!今すぐ始める美腹人生"等他の記事にも目を奪われ。(笑
ミッキー・ロークの個性、迫力の存在感はスバラシーですよね。
ホント、そこらのちょい悪オヤジ気取りには真似できまい。
今後もこの勢いでがんばってほしいですね。
俄フェレリスタ さんは伊勢にお住まいなのですかー
待ち遠しいですねー
Commented by mezzotint at 2009-06-23 13:56 x
かえるさん
こんにちは!
こちらでも13日から公開され、鑑賞してまいりました。
ミッキー・ロークは好きな俳優さんなので、
これを機に活躍を望んでいます。
当初スタジオはニコラス・ケイジを起用したいと思っていたらしい
ですが・・・・。ダーレン・アロノフスキー監督は予算を削られても
ミッキー・ロークの主演を死守したというのですから、監督魂は
半端じゃないなと思いました。

Commented by CaeRu_noix at 2009-06-24 00:57
mezzotint さん♪
低予算映画という感じでありながら、ミッキー・ローク主演の話題作で日本でもなかなかの拡大上映となりましたねー。
mezzotint さんはミッキー・ローク、お好きなのですかー。
私はあんまり好きなタイプではないんですが(笑)、とにかく本作の彼はすばらしかったですよねぇー。
昔のようなせくしー路線?とはまた違ったこのポジション、或いは更なる新しいタイプの役どころで、これからもじゃんじゃんがんばってほしいですねー。
そうなんですよ。ミッキーロークにこだわった監督のセンス、妥協しない強い意志あってのこの成功なんですよね。
ニコケイじゃなくて本当によかったー
Commented by 俄フェレリスタ at 2009-09-16 23:53 x
こんばんは。作品を未見の状態で、書きこんだままでした…。8月に見ました。ランディは、『愛より強く』の主人公ばりのやさぐれぶりでした。単に破滅的なジャイトと違い、ランディはプロレスという人生の支えがある分、マシな状況ですがね。
話自体が激しく熱い『愛より~』と違い、意外に淡々としてました。ただ、両作とも音楽の使い方が良いんです! 『愛より~』は、Depeche Modeの‘I feel you’が2回効果的に使われました。『レスラー』では、淡々と進む話に80年代ハードロックが彩りを添えてました。映画で流れた曲を作ったバンドの殆どが、今は活動してない事と主人公の状態が少しリンクしてるようでした。
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-18 07:18
俄フェレリスタ さん♪
再訪コメント、わざわざありがとうございます。
ミック・ジャガーとビロル・ユーネルとでは、その俳優としての印象があまりにも違うので思いもよりませんでしたが、なるほど、確かに、ランディにはジャイトに通じる野性味がありますよねー。でも、そうですね。生きがいも何もなかった頃のジャイトは日々の生活が荒れていて、とことん自堕落、自暴自棄であったのに比べ、ランディは生きがいをもっているゆえに、そのために自制し、努力をすることができる人間だったかもしれませんね。
本作は、ドキュメンタリー風といえるほどに日常を淡々と映し出していたりする部分もありましたが、全体を通してみると、かなりコテコテなほどにドラマチックであった印象です。私としては、淡々としているようで熱かったですー。
音楽づかいもよかったですねー。おお、なるほど。使われた曲のほとんどが今は活動してないバンドのものなんですか。素晴らしい考察ですね。
『愛より強く』のサントラも大好きですー。
Commented by zebra at 2011-09-19 11:25 x
こんにちは
DVDで見ました。

映画製作側はダーレン監督 ロークの主演にかたくなに主張して実現したと聞きます。 製作舞台裏でも ドラマがありますね~~。

友達にもみせたところ「ニコラスじゃなくてよかったな。アイツじゃレスラーの役はムリだ」といってましたから。
Commented by CaeRu_noix at 2011-09-21 11:32
zebraさん♪
コメントありがとうございます。
今年公開されたブラックスワンがレスラーと対をなしているということで、改めて興味深い本作です。
ロークの出演にこだわったアロノフスキーはえらいですよねぇ。
ホント、ニコケイだったら、それらしさもヒューマンな味わいも半減したんじゃないかと思えますー。
ブラックスワンも面白かったですが、バレエというものを大切にしてくれなかったあちらより、レスラーの生き様にかんどうしたこちらの方が心に残る作品となっているなぁと。
Commented by zebra at 2011-10-01 13:07 x
CaeRu_noixさん ふたたび コメントします。

>ロークの出演にこだわったアロノフスキーはえらいですよねぇ。
 ただ、アカデミー賞 主演男優、助演女優ノミネート 金獅子賞受賞したから 結果自体はよかったものの ダーレン監督にとっても この作品は危ない賭けだったと言える。

作品がはずれて 映画業界から 干されるケースも少なくないですし そこから はいあがって第一線に復活するのだって容易じゃない。ミッキーのように何十年 挫折人生歩んでいくのだって ザラですから。ダーレン本人も相当覚悟がなければ 「レスラー」は なかった。

 ダーレン監督の重要希望は ①主演はミッキーローク ②主人公は落ちぶれ役で進める 華やか役はNG ③ 主人公はレスラー。他の格闘技はNG この要素で映画を作ろうとしたのでは・・・・

 これらの三つの要素のうち ひとつでも欠けてたら とんでもないハズレ作品になってた可能性が高かった。

 とくに③でレスラー以外で ミッキーに "ボクサー"役なんかNGですよ。その前に ダーレン監督は ボクサーはダメだと言ってたろうな。ミッキーの挫折を知ってるから そんな役はもってのほかと。

Commented by CaeRu_noix at 2011-10-03 00:12
zebra さん♪
そうですねー。
zebraさんはミッキー・ロークのこと、この映画のことがとても好きで、とても関心をお持ちなんですねー。
私は、ネット上で読める映画ニュースなんかで書かれているようなことしか知らないので、ああ、そうなんですかー、そうかもしれませんねー、というような相槌をうつことしかできませんが。
たらればはともかく、成功してよかったですと思うのみ。
ボクサーだとテーマから外れる感じですしね。

ミッキー・ロークは『インモータルズ』に出ているのかー。
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